みちのく雪見酒紀行2011

5.五能線

inserted by FC2 system


  21日は久しぶりの五能線に乗り、ついでにいつもは通過ばかりの能代に泊まってみることにした。能代まで直通で行く列車はなく、深浦で1時間半ほど待っての乗り継ぎになる。しかしこれはむしろ好都合で、深浦で昼飯 ・昼酒に時刻時間共におあつらえ向きだ。ちなみに弘前発、能代経由、秋田行きの直通列車は一応ある。リゾートしらかみ号を名乗る列車で、全席指定なのは大嫌いなタイプだ。おまけに冬期は土日のみ運行なので、この日はいずれにせよ利用できない。

 深浦行き普通列車。弘前駅にて。
 
 岩木山。9時59分。
 

  弘前駅始発の深浦行き列車は9時20分頃に入線した。車掌に確かめ、海側の視界を確保できる進行方向左手に席を占める。奥羽線の普通列車などとは異なり、ボックスシート(向かい合わせに四人掛け)なのが嬉しい。
  二駅先の川部で、秋田発青森行きと、青森発秋田行きの普通列車を連絡し、車内は四割程度の乗車率になった。観光客風も数名見かける。
  川部から列車の進行方向が替わり、左手に岩木山を見ながら、津軽平野を西北に走る。うっすら靄がかかっているものの、まずまずの好天気だ。
  周囲にリンゴ畑が多いのは津軽ならば当たり前と思うが、所々で葡萄畑を見かけた。それもワイン用の仕立てだ。私の乏しい経験からすると、車窓風景でかつて見たことはない。
  五所川原でかなりの乗客が降りる。津軽鉄道の始発駅であり、冬ならばストーブ列車、また太宰ファンならば金木町の斜陽館など、観光資源には恵まれているようだ。しかし今やストーブ列車は1枚300円の「ストーブ列車券」が必要だし、太宰は嫌いだからこの線に乗ることはなさそうだ。

 

 深浦より若干北の海岸。
 

   11時近くなり鰺ヶ沢に到着した。此処からは海沿いを走る。かなり以前に読んだ宮脇俊三の紀行文では五能線の魅力を、「列車の曇りガラスを通して眺める灰色の冬の海」みたいに表現していたように朧気ながら記憶する。またこのような記述に惹かれて五能線の人気が高まったとも。
  しかし今見る海岸風景はひたすら長閑で明媚だ。灰色の海に憧れてきたわけではないし、五能線をステレオタイプで理解もしていないので車窓風景を大いに楽しむ。途中の千畳敷は2006年の秋に、みちのく観楓会紀行で立ち寄ったところだ。あの時は格別な印象もなく、そして今も景観として平凡と思うが、かつて友人と共に旅したと云う記憶があると、懐かしいものとして眺めてしまう。このような機微が旅を重ねる楽しみなのだろう。
 12時6分に深浦到着。五能線の終点、東能代まで行くのも同じ列車だが、車内に居残ることは許されないので、ともかく全員が下車する。およそ10名ほどだった。  

6.深浦の回転寿司

 回転寿司屋には過ぎたると云って良さそうな眺望。
 
 
 

上から、刺身盛り合わせ、大根サラダ、北寄貝、活きカンパチ、天然鯛、平目、アラ汁。握りは全て二貫ずつあったが、撮影を忘れて食べてしまい一貫だけ撮ったのものもある。

 

 前回来た時は、(たぶん)駅舎に隣接するようにして居酒屋風食堂があり、そこで昼飯・昼酒をやった。既にこの店は消滅したようで、交替するかのようにできた回転寿司屋に入る。駅からの距離は50メートルもない。
  外観は銀色のアルミサッシ引き戸で素っ気ない。しかし回転寿司屋が外観に金をかけてもしょうがないと思うし、その分安くしてくれた方がよい。店内に先客はなく、カウンターの中にオヤジが一人いるだけだ。
  眺望の開けた奥の四人掛けボックス席が魅力的だ。混みそうであれば遠慮すべきだが、シーズンオフの平日にそんなこともあるまいとボックス席に坐った。混んできたら移動すればよい。
  冷や酒を頼み、ツマミに好適なものを訊いて、刺身の盛り合わせにした。正面のカウンターに坐るより、裏側からなので捌きの手元が見えるのが面白い。それなりに板前修行をしたらしく、鮮やかな手際だ。出されたものは特に地元産と云うこともないが、それぞれ旨かった。
  客がいないので寿司はほとんど廻っておらず、おすすめの品を書いたカードが回ってる。それを見て、大根サラダ(100円)を注文。しばらく飲んでから、数少ない廻っているものの中で、北寄貝、イカ、タコなどをピックアップする。イカはずいぶん長いこと廻っていたのか、表面が乾いていたものの、そんなことは気にせず美味しくいただく。
  一時間ほどで酒四杯と活きカンパチ、天然鯛、平目などをじっくり呑み食いし、最後を粗汁で締める。勘定は3,000円前後。回転寿司の相場は知らないがずいぶん安いと思う。
  徒歩一分の深浦駅に行くと、既に能代行きの乗車は開始されていた。しかしそれほど多くの乗客がいるはずもなく、ゆうゆうと海側の席を確保できる。ほろ酔い機嫌で海岸線の景観など楽しみながら乗車1時間38分、無事能代に到着した。徒歩5分の能代キャッスルホテルにチェックインする。
  一風呂浴びてから、しばしの午睡を楽しむ。黄昏始めた5時に、晩酌すべく外出する。一番間近にあった居酒屋千両は、玄関の引き戸を開けてみると、靴を脱いで上がる型式と判り踵を返す。次に行き会った居酒屋ふきやは、外観からするとごく平凡だったが、中を覗くとカウンターとコンクリートの土間が目立つ、寒々とした感じの店だ。接待や女性同伴で訪れるにはさっぱりと思われるが、ジジイが一人で呑む分にはこれも一興。
  亭主らしい60代後半のオヤジが一人、所在なさそうに佇んでいたが、客が入ったので奥に声をかけると、連れ合いらしいバアサンが出てきた。  

 締めに食べた掛け蕎麦。

  ともかく冷や酒を所望。焼き魚を訊くと、小型だけれどノドグロがあるという。馴染みのない魚だけれど、これを頼んだ。オヤジは下ごしらえをしてからガス上火式焼物器にセットし焼き始める。時間がかかりそうなのでカミサンに漬け物を頼んだ。大根の漬け物を切ってくれるが、家庭用ステンレス三徳包丁のいかにも切れなさそうなのでゴキゴキやっている。亭主が柳刃の研ぎ上げた包丁を使っているのと対称的で面白い。
  ゴキゴキでも漬け物は旨かった。そしてノドグロが良かった。どのようにかが上手く表現できないものの食べる機会があれば迷わず選ぶ。
  湯豆腐も追加して、酒五杯。最後を掛け蕎麦で締めた。勘定は3,200円と格安にもかかわらず、バアサンはさらに200円はおまけしてくれるという。申し訳ないのでちゃんと払ったが、3,500円ぐらい置くべきだったかも知れない。咄嗟のことだし、さらに酔っているのでこの辺りをコントロールするのは誠に難しい。後は真っ直ぐ宿へ帰った。

7.秋田迎賓館