みちのく雪見酒紀行2011

4.弘前の知人

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  翌20日は小雪の舞うような天候だったが、気温は高く道路が凍結するようなことはない。10時にOさん夫妻が車で宿まで迎えに来てくれる。この日は半日を弘前で遊ぼうとの予定だ。
  国道7号線を走ること1時間、無事弘前の街に入った。そこから先どこへ行くか、三人とも具体的な案はなかったので、取り敢えず寺町見物を提案してみた。特に異論も出なかったが、どこに位置するかは二度ほど訪れていながら記憶にない。
O夫人が道路地図からそれらしいところを探し出す。  

 
 長勝寺三門(国指定需要文化財)。
 

  辿り着いたのは禅林街で思い描いていたところだ。ちなみに弘前には新寺町という住所があるけれど此処ではない。禅林街を構成するのは曹洞宗の33ヶ寺で、一番奥にあるのが長勝寺だ。弘前藩主(津軽藩は通称)の菩提寺でもあり、禅林街一の格式を誇る。
  観光客や参拝客などは一人もいないが、なぜかタクシーが客待ちをしていた。駐車場が見当たらず、交通量がごく少ないことを良いことに、路上駐車で車を離れ、長勝寺を見物(参拝)した。
  三門は重文指定にふさわしい堂々たる建物だったが、同じく重文の庫裏は修理中で足場と防護シートに隠れて見ることができない。本堂も重文だが、これもまた庫裏の裏側にあり良く見ることができなかった。境内ではその他に御影堂(重文)が拝観できたが良さが理解できず、境内背後にある5棟の津軽家御霊屋は積雪のため近付けなかった。それほど期待していたわけでもなく、満足して次へ移動。

 最勝院五重塔(国指定需要文化財)。

   禅林街を一通り歩く。人通りも車の往来もなく、歩いている分には雰囲気の良いところだが、境内に入ってまで見たいと思うような寺は見当たらなかった。禅林街の入り口付近に栄螺堂なる建物があり、八角形なのになぜか俗称は六角堂。ちなみに栄螺は内部が螺旋階段で登って行く構造から名付けられたらしい。内部を見れば面白いのかもしれないが、外観はさほどのものではない。
  道路地図に見える、「もう一つの寺町」へ移動する。立派な五重塔があったと記憶していたためだ。車での移動はスムースに行ったが、街並みとしてみると禅林街より数段劣る。一つには禅林街のように袋小路的ではなく、県道28号線となって交通量が多いこと、そして各寺も鉄筋コンクリートの本堂や庫裏などが見受けられ味気ないためだ。それでも一番端にある最勝院の五重塔はさすがに堂々たる風格だった。
  最勝院と隣接する八坂神社への入り口は県道28号線の折れ曲がり点にあり、駐車場ではないけれど、車四台くらいが駐車できる空き地があった。短時間なので、此処を利用する。
  三門をくぐると、正面に本堂、斜め左手に五重塔が見える。寛文7年(1667年)に完成し、明治41年(1908年)に重文指定されている。91年9月に台風19号で、倒壊寸前の被害を受けたそうだが、その冬に修復工事着手前の姿を見ている。それから20年も経ったとは思っていなかったが。

  オードブル。ピントが合っていないが、左下の青いものは蝦の卵。その右側が生鮭の麹漬け。
 

 ホタテのムニエル(?)。
 

   時刻は12時を廻り、弘前見物はお城でひとまず終わりにするべく、野の庵に向かった。店の駐車場に車を置かせて貰い、春陽橋で西濠を渡り北の郭へ坂道を登る。
  城趾公園はほとんどが雪に覆われ、日曜日なのに人出はほとんどない。一段高い本丸まで行くと、西側からの見晴らしが素晴らしい。西堀や野の庵が眼下に見え、その向こうに津軽平野が拡がり、岩木山麓へ至る。生憎なことに山頂付近は雲に覆われ ていた。
  半時間ほどの城内散策を終え、野の庵に入ると、女将が西堀を望む(寒い時期はガラス戸で仕切られている)テラス席に案内してくれた。
  ともかく冷や酒を頼んでから、久闊を叙する。前回の訪問が昨年7月で、その際同行した畏友Tが、年明け7日に急逝し、そんなことを話してちょっとしんみり。しかし話題を切り替え 再会を喜ぶ。
  この店を見付けてかれこれ十年だが、遠隔の地と云うこともあり、年に一度ぐらいしか来られない。それでも女将はよく覚えていて、三回目くらいからは食事と酒が終わっても、長い時間話し込んだりするようになっていた。さらにここ数年は親しさが増し、たとえば一週間ほど前、拙宅に友人二人を招いた時、女将の娘さんも参加するような付き合いだ。ちなみにこの折には川崎(神奈川県)で雪見酒となった。
  そんな間柄なので、一応お品書きからコースを選んだものの、出てきたものはずいぶん違っていたような気がする。ともかくどれもが旨いし、酒に合う。これまで野の庵の料理は、「普通に旨い。」程度に思っていたのだけれど、印象を改めた。
  昨晩の料理と対称的だったことも面白く感じた。甲乙は付けがたいが、片や素材の旨さをごくシンプルに味わったのに対し、こちらは素材の良さをさらに磨き上げた感がある。ともかく職人芸の凄さに脱帽。
  酒は田酒、ねぶた、じょっぱり、など女将吟味の地酒が銘柄を替えて次々登場。昼酒は三杯までとしているが、これだけ美酒佳肴となれば四杯目になったのもやむを得ない。この昼も飲食と歓談を堪能した。
  このままとことん飲み続けたいような気分になったものの、
Oさんは明日仕事があるし、それ以前に車を運転して青森まで帰らなければならないから酒は禁物。こちらとしても昼酒に 酔ってあまりはしゃぐわけにも行かない。そんな事情もあって3時前にお開きになった。駐車場まで女将とご亭主がわざわざ見送ってくれる。
  野の庵でデザートまでいただいていたものの、そのまま別れるのも名残惜しく、喫茶店に寄ることにした。馴染みの壱番館は日曜午後のため閉まっていたので、近くにあって以前から気になっていた北奥舎に入る。津軽塗りの老舗が店の一部を喫茶店としているもので、期待に違わず良い雰囲気だった。弘前は上記二店のみならず、喫茶店の質が高い。
  喫茶店から駅前のビジネスホテルまで送って貰い、ここで
Oさん夫妻とお別れ。一眠りしてから黄昏の新鍛冶町へ。目当ての焼き鳥屋は日曜のため休みで、隣の居酒屋に入った。久しぶりに食べた銀だら切り身の焼き物が旨かった。 その他野菜サラダなどで5杯飲んで4,300円。

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