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湾口辺りから振り返る。中央に隠岐プラザホテル。 |
カーフェリー「しらしま」のタラップを登り、下層船室(2等船室)から階段で二階分上がり後部デッキに出た。高曇りで風はなく、気温は若干高めだけれど、出航すれば海風を受けて快適に冷やされるだろう。まずまず良好な航海日和だ。
甲板にはベンチが並んでいる。詰めて坐れば四人、空いていれば身を横たえることもできるサイズだ。定刻8時半の出航は、銅鑼が鳴ることもなく物静か。いってみれば(通勤電車が発車するような)ごく日常的なことなのであろう。
後甲板の手摺りにもたれて、遠ざかる西郷港を眺め続ける。たった四泊ではあったが、その間にこの地に対する愛着は充分育っていたようだ。ちょっぴり感傷的な気持ちになって、隠岐プラザホテル9階左端の部屋を眺め、あそこから港を出て行く「しらしま」を見下ろしたことを回想する。
船が湾から出て烏貝崎
を回り込んだ辺りでベンチに落ち着く。乗船するとき係員に見せたままポケットに突っ込んであった切符を取り出して眺めた。「一等乗船券」と印刷してある。
あの時「高い」と思ったのは正常な反応で、二等2,530円、特二等3,300円の一ランク上だった。デッキは等級に関係ないから二等で充分だったのだ。しかし今更等級変更を請求して差額を取り戻そうなどという気はない。
蛸木の沖辺りを航行中に、甲板にいた乗客のあいだにどよめきが走る。後方数百メートルのところで、イルカ数頭がジャンプを繰り返していた。望遠ズームレンズへの交換は間に合わず、撮影には失敗。
単調な航海が続くので船室の等級を観察に行った。二等から一等まで、畳(?)の上に絨毯を敷いた構造とその品質には差がなさそうだ。違いは二等には丈の低いパーテーションで、全体だだっ広い印象、特二等はパーテーションが天井までになり、それなりに落ち着く。一等になるとドアがあり、密閉空間となって通行人などの目に晒されることがない。しかし一番の違いは人口密度で、二等は一坪に二人、特二等は一人、そして一等は十五坪ほどの部屋に誰もいなかった。 |