島後とうご・西郷港

 黄昏の光を浴びて出漁する小型漁船。

 太陽の光が僅かに赤みを増し、黄昏の気配が忍び寄る頃、正面に島影が見えてきた。隠岐を形成する三島のうちで、面積、人口共に最大の島後とうごらしい 。その姿がみるみる大きくなり、港とその後背地に拡がる町が肉眼ではっきり認識できるようになると、エンジン音が低くなり、船の速度がガクンと落ちる。
  船内放送で西郷さいごう港到着が報じられると、船内に慌ただしい空気が流れる。定刻4時52分に接岸した船から大半の乗客が下船すると、もどかしげに待っていた西郷からの客が乗船し、58分には出航して行った。「高速」で稼いだ時間を少しでも無駄にしたくないように。
  ちなみにこの船は以後、中ノ島の菱浦ひしうら港 を経由し、西ノ島の別府港で一泊し、翌朝7時40分に同港を発して逆コースを辿るらしい。
  宿は港から徒歩5分の隠岐プラザホテル。予備知識はなくインターネットのホテル紹介で決めたところで、位置も良く判らなかったが十階建ての建物は隠岐一の高層ビルで、港からも一目瞭然だった。提供されたのは九階(十階はレストラン)の、港を眼下に見下ろす(オーシャンビューの)和洋室だった。正直なところ、シングルベッド二つに加え、六畳の畳部屋付き(ベッドが嫌いな人はこちらで就寝)は広すぎて落ち着かないところがある。しかしこのホテルは基本的にシングル客を対象とせずに建設されたようだ。一泊朝食付きで税込み8,925円はインターネット向け特別料金とか。
  フロントの対応は親切かつ丁寧だった。島内観光案内パンフレットを貰い、スーパーマーケット、本屋、夕食を摂れそうな居酒屋、インターネットにアクセス出来る場所を尋ねる。スーパー、本屋は徒歩2分の風待ち商店街にあるのを念のためにパンフレットの地図へ書き込んで貰った。居酒屋は別途グルメマップを手渡され、インターネットは該当なしだった。

    風待ち商店街

 天神橋から上流側の眺め。
 

  ホテルのある出島のような港町(住所表記)から天神橋を渡ると風待ち商店街だ。それほど由緒ある 名称ではなく、近年の「町おこし・観光開発」の一環として名付けられたように思われたが、裏付けはない。
  橋を渡ってすぐの所にある本屋に寄り、大判列車時刻表を購入。隠岐から家へ帰るルート(日程)が未定であり、北陸廻りなど種々検討するつもりでいる。次いで商業ビル「ふれあいタウンピア」の地下にあるスーパーマーケットで、牛乳1gとお茶の2gペットボトルを購入。ホテルの部屋に備え付けの冷蔵庫があるのだ。
   時刻表に液体3リットルを加えて重くなった荷物を持ち歩く気になれず、いったん宿へ戻る。冷蔵庫を開けてみたらビールその他がセットされ、引き抜くとフロントで自動的に課金されるタイプだった。何とか場所を確保して液体をしまい込む。
 

    居酒屋讃岐

 居酒屋讃岐。

  出直してグルメマップを参考に港界隈を一巡する。 紹介されているのは「食べ歩き」が39店、「飲み歩き」が26店で、飲み歩きの方はスナック、ラウンジの類ばかりで最初から食指が動かない。風待ち商店街界隈の食べ歩き対象を瞥見し、結局戻り着いたのは最初に目に入っていた、ふれあいタウンピア横の坂を登ったところにある炉端焼き「讃岐」だった。
  6時ちょっと前、五人ほどのカウンター席と、座敷が二つの店内には中年の女将が一人いるだけで閑散としている。カウンターの端に陣取り、冷や酒を注文した。ツマミはお奨めのバイガイ刺身。西郷港に揚がったものだ。店構えからすれば、かなりの年季が入っているはずなのに、どことなく素人っぽさが抜けない女将と世間話をしながら冷や酒を干す。
  ツマミに軟骨の串焼き(ヤキトリ)や酢の物も頼んで、冷や酒を呑み進める。客はさっぱり現れないけれど、娘らしいのが小学生の子(孫)を連れて来た。二階に居住しているらしい。女将は娘が運んできた材料で、手早く焼き飯などを調理し、奥の座敷で「家族の夕食」が始まった。子供達は慣れたもので、店の冷蔵庫から好みの清涼飲料などを出して飲んでいる。ますます素人っぽさが際だつ。
  そんなのを肴に冷や酒をあおり、定量五合を呑んでおしまいに、店のメニューではない焼き飯を所望した。子供達の食欲は既に満たされていたとみえ、これにありつくことが出来る。酔いが回り始めていたこともあるが、この手の賄い食的なものは旨い勘定は締めて4,500円。
  宿へ引き返し、すぐに就寝した。夜半に目を覚まし、カーテンを引かなかった窓から沖を眺めると、烏賊釣りらしい漁り火が、二つ、三つゆっくりと移動しているのが見える。和室を横切って窓を開けると、満天の星だった。ベッドサイドにあるデジタル時計で、3時であることを知る。

                ****島後の西北部へ****  
  

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