みちのく雪見酒紀行2011

***目次***
1.この冬もまた雪見酒
2.青森の昼酒
3.青森の友

4.弘前の知人
5.五能線へ
6.深浦の回転寿司
7.秋田迎賓館
8.奥の細道 ―― 最上川ライン
9.仙台居酒屋漂泊
10.あとがきに替えて
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1.この冬もまた雪見酒

  この冬も雪見酒に出かけた。 最初の雪見酒は92年のことだったからかれこれ20年近く続いている。マンネリとの思いもある一方、「継続は力なり。」と云う言葉もある。どうせお遊びの旅なのだから、動機の正当性など考えるのも無駄だろう。と云うことで,この冬も 2月18日から雪見酒紀行が始まる。

 上左:駅界隈の居酒屋、東屋の店頭。
 下左:漬け物。

右上:お通し。
右下:スズキ刺身。

    上野駅界隈で先ず一杯。昨年見付けた居酒屋、「東屋」へ行く。特別何がよいと云うことではないが、正統的な居酒屋らしいところが好みで、客あしらいもそこそこ良いし、ツマミなどのコストパフォーマンスはかなり高い。上野駅不忍口を出て徒歩三分で店の前へ。
  昨年はガラス戸があったはずだが,今は透明ビニールで店内外を仕切り、要するに 屋台店風に変わっている。今時はこんな風なのが客に受けるのだろうか。ともかくビニールの継ぎ目から店内に入った。
  予想以上に混んでいる。考えてみればこの日は金曜,サラリーマン風で各テーブルは盛り上がっていた。辛うじてカウンターに席を確保できる。冷や酒に漬け物と、この日お奨めのス ズキ刺身を注文する。
  気持ち良く四杯干して前哨戦は終わりにする。勘定の2,450円は安い。居酒屋を出ると真っ直ぐ駅へ向かった。改札口で寝台特急あけぼのの入線時刻を訊き、余裕があったのでエキナカ・コンビニエンスストアでミネラルウォーター1リットルを購入。間もなく列車も到着した。
  早々検札を済ませ、後は個室で寛いだ状態作りに専念。衣類を脱ぎ捨て、酒とツマミを窓際に並べる。一応列車が動き出すのを待って、おもむろに飲み始めた。既に冷や酒四杯が入っているためか、比較的ゆっくりしたペースで呑み、高崎到着直前の10時40分に酒が無くなる。いつものことで、この時刻は翌朝記憶からはキレイさっぱりなくなっていたものの、それを見越して、空の酒容器を撮影して置いた。
 

 8時34分、碇ヶ関付近。

 2.青森の昼酒

ぐっすり眠って、目を覚ましたのは秋田が近くなった6時前後だ。窓外に目をやれば、まずまずの晴天で雪の量も多い。
  雪見酒なのだから、雪のないシーズンはガッカリする。ところがこの冬、取り分け一月は大量の降雪があり、そうなると寝台特急あけぼのが運休したりする。B個室寝台 の上段という条件を付けると切符の入手が難しく、運休になったら翌日乗れば良いとはいかない ので、豪雪のニュースを聞けばやきもきする。二月に入り、それなりに天候が安定してくれたので、「雪見酒に好適。」と安心した。さらに云えば、北国の人々は雪に苦しめられているから、 他所者がはしゃぎすぎてはいけないと思う。
  青森駅に定刻9時56分到着。此処まで利用する乗客はかなり物好きと云えよう。なにしろ新幹線を使えば、東京発6時28分が、新青森に10時16分着き、料金は16,470円。それに対してあけぼのの料金は19,950円もする。
  安くて早いのはバスで、あけぼのとほぼ同じ時刻に東京を出発し、青森着が7時、料金は7,500円。秋田から大館くらいならば寝台特急の優位も考えられるが 、青森まで乗る人は何を考えているのか。もちろん私の場合は個室でゆっくり吞めるからなのだけれど 、そんな人が多いとは思えない。
  他人の思惑はさておき、10時から数時間の過ごし方を思案する。夕食は青森在住の
Oさん夫婦との予定で、夫人とは2時半に待ち合わせて,地元市場を見物がてら海産物などを調達予定だ。問題は待ち合わせまでの4時間半で、飲み過ぎては後が辛い。
  良い知恵も浮かばぬまま、駅前通を東南東へ歩く。一応探していたのは、時間潰しできる場所、昼飯昼酒に適した店、晩の宴会で試したいような食材を商う店だ。結局どれも思わしいものが見付からぬまま、3年前に利用したドトール・コーヒーショップの前に至 る。此処で持参の文庫本、竹中労著「聞書アラカン一代―鞍馬天狗のおじさんは」で、少し遅めの昼飯までを繋ぐことにした。
  紀行とは直接関係なくなってしまうが,この本は実に面白かった(滑稽にしてかつ興味深い)。貪るように通読し,その後、旅の途中で何回読み返したことか。どの部分を拾い読みしても良い(おもしろい)ことも、文庫本の軽量と合わせ、旅に持ち歩くに絶好だった。

左:お通し。上右:すけそうだら白子とネギの煮つけ。中:ほたて貝焼きみそ。
下左:ホタテひも刺身。下右:焼干ラーメン。

  ドトールの店内に入り,カウンターでブレンドコーヒーのミドルサイズ250円を貰い、席を探す。二階が喫煙、一階禁煙は煙の流れを考えれば適当な棲み分けであろうか。テーブルの配置はゆったりとし、そのうえ客が少なかったので真ん中辺に坐る。
  落ち着いて読書できる環境だったのが有り難い。途中でコーヒーをもう一杯貰い、2時間近く読み続ける。12時半を廻って,昼酒に移動することにした。
  駅近くのアウガへ寄る。青森市が再開発で作った9階建て商業施設で,地下は、「新鮮市場」を名乗り、元々この場所で営業していた「駅前市場」の商店が多いらしい。
O夫人との待ち合わせ場所も此処だが,下見をすると共に、食堂も四軒あるので昼酒するのに良さそうか品定をする。
  函館の朝市ほどではないにしても,観光化が進行しているようだ。場内を歩き廻っているのは観光客か,そうでないにしても日常の買い物をしに来たとは見えないような人ばかりだ。食堂の方は,営業時間が朝5時から、早い店は午後3時に閉まることを考えれば,それほど観光化していないのかも知れないが、一見の印象では食指が動かなかった。
  結局過去二回利用した駅前食堂おさないに入る。店内には先客が四組、観光客と地元が半々だろうか。冷や酒を頼み、テーブルに置かれた、「今日のおすすめもう1品」カードから、すけそうだら白子とネギの煮つけを追加した。
  昼飯だから、もう二品ぐらい追加したいけれど、選択に悩んだ。グルメではないので、日頃は簡単に決めてしまう。しかしこの日は、「晩には地元の海鮮で一杯。」と決めているから,それとの重複は避けたいし、あまり満腹になるようなものも敬遠し、それでもできれば青森らしいものが欲しいとなれば,迷うばかりだった。
  挙げ句の果てに、ほたて貝焼みそを注文した。なんといっても青森の名物はリンゴにホタテだし、貝殻に載せて焼いたものならば量は知れているだろう。これが甘い見通しだった。貝殻パターンの金属製鍋は,差し渡し20センチほどもある。そしてそこにたっぷり盛られたホタテは何個分だったのだろうか。出汁とネギを加えて味噌味で煮立て、卵で閉じてから味噌を中心部に小さじ1ほど乗せてある。ボリュームたっぷりの料理だった。
  出された時にはいささか怯んだものの、時間をかけて酒と共につまむと,意外に箸が進んだ。酒三本目を追加する時には、日頃の半額になっていたほたてひも刺身を追加する始末だ。
  夜を考えると,四杯目は慎むことにして,昼飯を何で締めるか考える。カツ丼が好物なのだけれど,二、三年食べていない。これにしようと思いながら、「カツ丼をわざわざ青森で食せずとも。」などの雑念が湧き、結局は焼干ラーメンを注文してしまった。長いことカツ丼を食べていないのも,実はこんなことの繰り返しなのだが。
  焼干ラーメンは素朴に旨く、満足の昼食が完了する。勘定は、酒三本(徳利型ガラス瓶正一合×3)1,950円、ほたて貝焼みそ800円、すけそうだら白子とネギの煮つけ300円、ほたてひも刺身200円、焼干ラーメン650円だった。
  

.青森の友

  アウガ地下新鮮市場の一角にある休憩広場に、約束の2時半ぴったりにO夫人が現れる。海産物の買い物は,観光化しつつある此処よりも、近所に鄙びた市場があるとのことで,ともかくそこの様子を見に行くことにした。古川市場(青森魚菜センター)だ。
  アウガの裏口を出て徒歩1分、規模は一回り小さいようだが、場内の客はこちらの方が多かった。
2009年12月から、市場の活性化を目論んで始めた「のっけ丼」が好評だと云うこともあるらしい。確かに魅力的なシステムだと思う。
  いかに魅力的でも、今は昼食を終えたばかり、買い物に専念する。まずモズクとナマコ、関東に比べて格安だ。市場の外れにあるホタテ貝専門の工藤ホタテで、特大サイズ3個を600円。これも安い。頼めばその場で殻を外してくれるが、殻付きで持ち帰った方が、何となく鮮度が良さそうに思う。
  アウガに引き返し、すけそうだらとその白子を鱈チリ用に調達し、買い物は完了にした。時間に余裕があるので寄り道する。O夫人の提案はねぶたの家 ワ・ラッセか県立美術館を巡ろうと云うものだった。ワ・ラッセは青森ねぶたの保存伝承などを目的として建設されたらしいが、1月5日に開業したばかりと云うこともあり混雑しているらしい。O夫人の、「来る道すがら見たらば、観光バスも停まってましたよ。」の一言で怖じ気をふるう。団体客は嫌いだ。
  と云うことで訪ねた県立美術館は、企画展が、「芸術の青森」で、コンセプトが、「青森の自然をキーワードに、“青森発”の表現が一堂に会します。」とのことで、棟方志功やナンシー関の作品やこぎん刺しが展示されていて面白かった。
  予想以上に美術館が広く、そして展示内容が充実していたため、最後は5時の閉館予告アナウンスに背中を押されて美術館を出るような次第となった。6時から宴会開始を予定していたから、準備の時間が不足になってしまったが、もとより気の置けない間柄なので、成り行き任せで行く。
  Oさん宅でホタテの刺身や、ナマコ、鱈チリの準備を手分けして進めるうちに、Oさんも職場から帰宅。青森の海の幸山の幸がテーブルに並び、乾杯で宴が始まる。それからは 10時半に名残を惜しみつつお開きになるまで、歓談と美味の実に楽しい数時間だった。

4.弘前の知人

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