仙台居酒屋探訪紀行(雪見酒紀行番外編)

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発端

 例年の雪見酒紀行では、仙台を旅の最後に訪れることが多かった。雪こそあまりないものの、在住のO氏、N氏と酒を酌み交わす楽しみがあるからだ。しかし雪見酒紀行2009の旅程が概ね決まってみると、今回は易国間一泊が増えた分、旅程に余裕がなくなり、仙台は失礼せざるを得ない。この旨をあらかじめメールで通知したところ、折り返すように両氏からブーイングメールが送られてきた。行かないと拙いらしい。
  しかし今回雪見酒紀行の日数を増やすことはできず、苦肉の策は一泊で仙台だけの旅と成った。称して仙台居酒屋探訪紀行。以下はその顛末だ。
  2月21日の土曜日、東京駅2時46分発のやまびこ57号で仙台へ向けて発進。大宮直前までは順調であったが、与野本町辺りで減速しついには停車してしまった。しばらくして車内アナウンスは「前方を走っている列車から飛び降りた乗客がいて、安全確認のためしばらく停車する」と告げる。 順次情報は入り、ついには「人身事故」であることが判明した。
  誠に迷惑な次第だが、いかんともしがたい。持参した本で時間潰しをしながら耐える。一旦、大宮駅までは移動して、ここで乗降があり、車内はほぼ満席になる。さらに待つこと20分、ようやく「安全確認が終了. . . .」が告げられ、36分遅れで大宮駅を発車した。
  郡山で遅れは40分に拡大した。取り敢えず両氏に電話し、「ホテルへはチェックインせず、待ち合わせ場所へ直行する」旨を伝えた。結局仙台に到着したのは暮れなずむ5時15分だった。さくらのデパート裏の焼鳥屋、鳥紀へ急ぐ。

鳥紀

 鳥紀の赤提灯。           
 
 店内。
 
 テーブルに置かれたメニュー。
 
砂肝タレ焼き。
 

さくらのデパートは駅前広場と青葉通りに面し、特等地に在る。その裏側だからその辺りも一等地なのだろうが、雰囲気は一変して四十年前ぐらいの典型的場末横丁の佇まいが残り、その中でもひときわ濃厚に破れ赤提灯を掲げているのが鳥紀だ。
  階段を降りて地下の店に入る。時刻が早いせいか店内は閑散としていた。ウェイトレスに待ち合わせて三人になることを告げ、テーブル席に坐る。「揃ううまで飲み物はお待ちになりますか?」と訊かれたので、冷や酒一杯だけを注文した。
  改めて店内を観察する。店、客、ともにレトロな雰囲気で、数十年タイムスリップしたような錯覚にとらわれる。奥の座敷ではリタイヤ後10年と云った雰囲気のジイサン達が宴会を始めるらしく、三々五々店に入ってきては久闊を叙している。
  間もなくO氏、続いてN氏も来店し、13ヶ月振りの再会を祝し、乾杯。一時間ほどをここで過ごし、酒3本、生ビール中6杯、砂肝タレ焼き、肉豆腐、煮込みなどで勘定は4,500円程度。次はすぐ隣にある立ち飲み酒場に入った。
  

  仙台銀座を行くON両氏。
 

はしご酒

ウナギの寝床のように細長く奥へ延びた店内は6メートルほどのカウンターがあり、先客5,6人が呑んでいた。カウンターの内側にはオバサンが4人。混雑時にはこのくらい人手をようするのだろう。小鉢に入った湯豆腐(120円)をツマミに冷やを一杯。この店の雰囲気も面白かったが、先があるのでこれで切り上げ、勘定は1,200円ほどだった。
  次いで向かったのは仙台銀座。徒歩5分ほどだ。この横丁で入ったのはホルモン屋だったが、ほとんど印象に残っていない。ホルモンを焼いて酒4、5本と云ったところだろうか。割り勘が1,500円程度だったとのメモが残っている。
  次の店は居酒屋よりは一ランク高級な(?)小料理屋で磯料理の「やまと」、ふぐの煮こごりを肴に冷や酒一杯。ここの割り勘メモは筆跡が乱れているが、多分1,000円。
  再び横丁居酒屋路線に戻って、文化横丁へ向かった。横丁は、もともと「東百軒店街」と称していたらしいが、1925年に活動写真館「文化キネマ」が開館してからはもっぱら「文化横丁」と呼ばれるようになったとか。
  横丁の佇まい自体が好ましいし、一見して入ってみたいように感じる店もそこここにある。その中でO氏に導かれて訪ねたのは源氏という店だった。

 文化横丁。
 
源氏店内。
 

1950年創業というこの店は、雰囲気も良いし客あしらいにそつはない。しかし微妙なところで馴染まない感じがあった。いかにもクサイところがあり、客の方もリラックスしているようでどこか身構えて呑んでいるところがある。最たるは「四杯で打ち止め」ルールで、通常四杯飲めば充分でありながら、それをルールにされると面白くない。文句が多くなったけれど、客観的に評価すれば、良質な多分最上級の居酒屋と思う。その一方で、自ら望んで再訪することはなさそうだ。一杯にお通しで、割り勘は900円。

 チョロン店内。O氏はこの店にいる画像が公開されるとマズイらしく、とっさに顔を隠した。と云うことで、氏の画像も画面左のN氏の画像もぼかしてある。
 

源氏を出てまた横丁路線を脱線する。すたすた行くO氏の後を追い、どこをどう歩いたか判らぬうちにビルの二階へ。一歩店内に足を踏み入れると、そこは東南アジアのリゾート。その名もカフェ・チョロンだ。数組いた客は若い人ばかりで、接客しているのは若いと云うより、少女の面影を残したような子ばかりだ。
  この手の店はどちらかというと苦手なので落ち着かないが、O氏は居酒屋から高級料亭、ゲイバーとジャンルを選ばないオールラウンドプレイヤーだから、ここに坐っても泰然自若。女の子との会話を楽しんでいました。
  一杯飲んで何か食べたようだが詳細は不明。半時間ほどで横丁路線へ復帰。

  壱弐参(いろは)横丁をサンモール一番町側から覗く。右側の二軒目「二代目」に行こうとした。
 

壱弐参(いろは)横丁は一時間ほど前、表からその佇まいを観察して通り過ぎたところだ。目指すはその名も「二代目」。O氏が昔から通う居酒屋「一番茶屋」の息子夫婦が開いた店で、ここもまた数十年タイムスリップできるとはO氏の曰く。
  しかし残念なことに満員だ。レトロな雰囲気が受けるのか、はたまた息子夫婦の客あしらいがよいのか。いずれにせよ「釣り逃した魚」は大きく思え、悄然と立ち去ろうとすると、息子が店を飛び出してきて「良かったらこちらで」と、横丁のさらにディープな部分へと誘う。
  横丁の横丁をどん詰まりまで行くと、そのお店「和風創作料理すけぞう」がある。カウンターとテーブル併せて20席ほどで、二代目と較べれば倍ほどの規模だろう。

  すけぞうのテーブル席からカウンター。
 

ここもほぼ満員に見えたが、テーブル席の方は誰もおらず、こちらへ寛いで落ち着く。既に充分飲食しているが、料理が自慢の店と見受けたので、一品、二品頼み、飲み物は地酒のリストから、これまた適当に選んだ。
  小一時間いて二、三杯干し、打ち上げにする。帰り際、もし座れれば一杯くらいと思いながら、二代目を覗くが、相変わらずの繁盛だ。O氏が引き戸をちょっと開け、紹介して貰った店が良かったと礼を云う。
  最後に文化横丁へ戻り(餃子が有名らしい)八仙へ。立ち飲み屋を出た辺りから「仕上げは八仙で餃子とラーメン」の話が出ていて、先ほど前を通ったとき店雰囲気は見定めたつもりでいた。しかし既に店内は薄暗くなり、オバサンが店の前を掃除していた。N氏が訊いてみると「ウチは10時閉店なんです」とのこと。時計を見ると、既に10時40分だ。
  二代目と八仙の二つが宿題として残った。しかしこれで良かったのだろう。余韻もあるし、何より健康に良い。最後までお付き合いいただいた両氏に感謝し、本稿を完了する。

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