***目次***
*地図
*マルタ共和国諸元
第一部:ヴァレッタその1
1.旅立つまでに
2.旅立ち
3.マルタ島上陸
4.ギリシャ料理店ELIA
5.ギリシャ料理店再訪
6.ヴァレッタの二日目
7.マルタ料理店Legligin
8.Airbnbの宿
9.ELIA再々訪
10.ヴァレッタ観光
11.スリー・シティーズ
12.Legligin再訪
13.ヴィットリオーザ再訪
第2部:古都イムディーナ
1.民泊移動
2.バス停留所Sciortinoの奇々怪々
3.フレンドリイ・アパートメント
4.イムディーナ訪問
5.軽食堂ドン・メスキータ
6.眺望レストラン クーギース
7.イムディーナ最終訪問
第三部:ヴァレッタその2
1.ヴァレッタのアパート・バレッタ騎士団(Valletta Knights)
2.展望レストラン・パノラマ
3.終章
 1.旅立つまでに
  年が変わって、6月辺りに海外へ二週間ほど旅しようと思い立ったものの、中々行き先が決まらなかった。イタリアは見どころも多いし、食べ物も好みに合うものの、昨年の11月を始め計5回も訪れているので、若干食傷気味でもある。スペインやポルトガルも考えたが、料理が好みに合わなくなってきた。ドイツは以前かなりしばしば訪れた、好きな国ではあるが物価が高そうだ。あれこれ迷っているうちに、ふと思いついたのは地中海の島マルタだ。
  2010年にシチリアを旅したとき、ついでに訪れようかとガイドブックなどを買い込んだが、結局面倒になり止めてしまった。カターニャからフェリーを利用すれば4時間強で行けるが、1ヶ月の旅で2カ国を巡るのは大儀に感じるようになっていたのだ。
  マルタと旅先が決まり、「地中海のとっておきの島マルタ」を買い込んで、晩酌時などに気の向いたページに目を通す。筆者は英語学習留学を目的に滞在した時の経験などを綴っている。旅行者やトラベルライターとは視点が異なっていて、私のような怠惰な旅人には向いた本だった。
  それ以外はこれと云った準備もしなかったが、次第に6月が近付き、飛行機と着いた日の宿は確保しておこうと、H.I.S.を利用して安売りチケットを探しに掛かる。直行便はなく、乗り継ぎなどで長時間になるのは嫌だったが、それ以上に避けたかったのは夜遅くに着くことだ。
  結局この条件を満たし、かつ安価だったのはトルコ航空で、出発は午後9時25分、イスタンブルで乗り継ぎ、マルタに着くのは翌日の午前9時50分だ。帰りはマルタを離陸するのが午後7時5分で、成田着は翌日の午後7時半となる。料金は旅行者保険まで含めて84,310円は予想より安かった。
  現地到着日時が定まった時点で宿も手配に掛かった。このところ海外旅行ではもっぱら利用しているBooking.comで探す。実のところシチリアの南方にある小さな島国だから、物価など安いだろうと高をくくっていたのだが、驚いたことに安い宿はバス・トイレが共同の所しかない。深酒をしてから就寝するのが常なのでこれでは困る。
  結局、首都バレッタの中心部から徒歩の範囲で見付かったのは、2泊で230€(30,038円)のアパートメント(炊事できる設備を伴った貸部屋)のバレッタ クルサラ ポートビューだった。こんな調子で2週間も滞在したら、宿泊費だけで20万円を越えてしまう。
  思わず頭を抱えてしまう状況を友人にこぼしたところ、最近日本でも注目されている、「民泊仲介サイト」の利用を示唆された。Airbnb(エアビーアンドビー)だ。加齢と共に新しいことに挑む意欲は薄れているが、20万円問題を考えると、Airbnbがいかなるものかを調べた後、ともかくクルサラ ポートビューの後に、4泊してみることにした。Booking.comよりは安いもののそれでも4泊で40,279円だ。宿泊費に関しては諦めるしかない。
  後はマルタ国際空港到着後、首都ヴァレッタへ行くのに、シャトルバス的なものはないらしいので、シェアタクシーを予約した。往復で16€(2,090円)で、一般のタクシーだと20€(2,612円)ぐらいらしい。さらに日本帰着は午後遅くなるため6月13日の宿も予約した。東京駅近辺は高いか満室で、カプセルホテルを始めて利用する。ともかくこれで事前準備は完了だ。
2.旅立ち
  5月29日に旅立つ。午後4時半に家を出た。これまでの海外旅行は、昼頃成田を発つ便利用ばかりだったので、ラッシュアワーに遭遇し、荷物の置き場所で恐縮するばかりだったが、夕方の上り電車は空いているのでありがたい。
  成田空港午後7時も、これまで経験したことのない閑散状態で、ちょっとばかり新鮮な体験と思う。早目に保安検査と出国手続きを終え、「日本の大衆食堂 たつ吉」で晩飯・晩酌にする。日向鶏のグリルが2,000円で焼酎のお湯割700円と割高だけれど、空港内と云うことを考えれば仕方ないだろう。お湯割を2杯お代わりする。
  イスタンブルの乗り継ぎ待ち時間は4時間ほどで、余り長く待たされた気もしなかった。免税店でアブソリュート・ウォッカの1リットル壜(20€(2,612円))を購入する。午前中に着くのだから、酒の確保をしなくても良かったが、初めての街で少なくとも飲むものが手許にあるのは心強い。
  イスタンブルからマルタまでの飛行機はボーイング737-300で、定員150人ほどの小型機だ。しかし飛行時間も2時間半なのでどうということもなく過ぎる。
3.マルタ島上陸
  マルタ入国はなぜか最後尾になってしまったが、手続きは無事終了し、荷物もつつがなく受け取ることができた。空港は小規模なので、シェアタクシー(maltatransfer.com)のオフィスも簡単に判る。
  印刷しておいた予約表を受付のおばさんに渡すと、台帳を確認し待機していたオヤジ運転手に何事か指示してから、彼の後をついて行くように云われた。小さな空港なので駐車場もすぐそばだ。小型乗用車のトランクにカバンを入れていると、若いカップルが追い着いてきた。彼等とシェアと云うことだ。
  空港からは高速道路などないが、道路の整備状態は良いし、交通量もさほどないので快適なドライブで、10分強走ると旧市街の入口に着いた。道路が一気に細くなり、スピードダウンして数分ほど進む。
  街角で運転手は車を停めると、トランクから私のカバンをおろしながら、「この坂を下って、最初の角を右へ曲がれば良い。」と教えてくれた。カップルを乗せて走り去る車を見送り、カバンからこれも印刷しておいた、宿の予約票取り出して住所を確認する。
宿のある聖ウルスラ通り。青い張り出し部分があるのが、この日泊まったバレッタ クルサラ ポートビュー 。
  指示された角を曲がり、街路名が Saint Urusula Street で有ることを確認する。しかし宿へ辿り着くにはアップダウンの急な道を10分ほど歩かなければならなかった。大きなスーツケースを持った旅人ならば音を上げていただろう。
  ヴァレッタの旧市街には車の乗り入れ制限などないから、宿の真ん前までとは行かなくても100メートルくらいのところで下ろしてくれても良さそうに思う。手抜きしたのだろうか?
  ともかく宿まで辿り着いたものの、ドアは固く閉ざされ、インターホンその他はない。一応ブッキング・コムを通じて11時頃到着予定と連絡済みだが、本来この宿のチェックイン時刻は午後2時なので、なかば「仕方ないか。」の思いもあった。しかし呆然と立ち尽くしていても虚しいので、ノッカーを使用して思い切り木製ドアを叩いてみた。
  しばらくして内部で音がし、ドアが開いた。肥満気味の若い女性が姿を現す。しかし彼女は単なる宿泊者で、偶々出かけようとするところだった。それなのに親切な人で、私が困っているのを見かねたのか、携帯電話を取りだして、「今から宿のスタッフを呼び出してあげる。」という。
  会話の内容は全く判らなかった。マルタ語だったのかもしれない。ともかく、「もう少し待てば. . . .」と云い残して去って行った。屋内に入れただけでも有り難いし、しばし待てば良いと判っているのは気持を楽にしてくれる。結局20分ほどして、これも肥満した若い女性があたふたと建物に入ってきた。
上:寝室部分。下:キッチン部分。左側の鏡嵌め込みドアの向こうが浴室。
  部屋は2階(日本流では3階)で、各階に一部屋しかないのにエレベーターが設備されている。部屋に入ると右手にキッチンとその奥に浴室、左手にダブルベッドがあり、寝室とリビングキッチンで12畳ほど、それに浴室部分が3畳ほどだ。アパートメントと呼ばれる部屋のタイプだった。ちなみにこのことはブッキング・コムで予約する際に、部屋の仕様を確認すれば判ったことだが、バストイレ付きかだけを気にしていたので、見落としていたのだった。
  建物自体は多分築100年以上だろうが、内部は比較的最近リフォームされたようで、清潔だし設備も新しい。予約時点で質に余り期待していなかったので、これはかなりの満足感がわき上がった。
  屋上も利用できるというので案内して貰った。エレベーターで5階まで行き、エレベーターホールのドアを開けるとそこが屋上テラスだった。この辺りはどの建物もほぼ同じ高さなので、屋上からは内陸部に深く切れ込んでいる入り江、グランドハーバーや、港を守護するために建設された対岸のリカソリ要塞などを一望できる。これならば宿の名前、ポートビューもなるほどだけれど、屋上だけと云うことだと、「看板に偽りあり」と思う。
  屋上で彼女と別れ、部屋へ戻った。ノートPCを取りだし、メールをチェックしてから、食堂を探す。グーグルマップで現在位置を地図の中央付近に定め、「レストラン」で検索すると、たちどころに十数件ヒットした。
  宿からの距離やクチコミ評判などを勘案し、Legliginを目的地と定め、宿からの道順を調べた。これをスマートホンに転送する。海外でのデータ通信料金は比較的割安な「海外1dayパケ(24時間30メガバイトまで)」を利用しても1,580円もする。しかしデータ通信を利用しないでも、宿などのWi-Fiでナビゲーションを開始すれば、途中で経路を変更しない限りは機能するのだ。これは私のような方向音痴にとって誠に有り難い。
 4.ギリシャ料理店ELIA
上:ギリシャ料理ELIAのテラス席でギリシャ白ワイン。中:ケバブ。下:ミックスサラダ。
  宿を出たのは丁度12時だった。一本裏の通りには、小さいながらも食料品店があり、これは便利だと思う。ナビゲーションに導かれ、無事にLegliginに辿り着いたものの、午後1時からの開店だった。
  ちなみにグーグルマップの情報をきちんと利用すれば、これも事前に判ることだった。
  50分も待つ気は更々ないし、テラス席がないことも期待外れだった。この日のヴァレッタは快晴で、湿度も低い。これならば屋外でそよ風に吹かれながらの飲食が最高だ。
  幸い此処へ来る途中で食指が動いた店があった。迷わずそちらへ転進する。此処でミックスサラダ、ケバブとギリシャ産の白ワインを一本。
  観光客を始め行き交う人は多く、時折乗用車さえ通過するが、忙しない気分にはならず長閑に食事を楽しむことができた。その結果、タクシーから歩かされたり、宿で待たされたりして低下していたマルタに対する評価がだいぶ回復する。
 ギリシャ産のワインに関して、
20年ほど前にエーゲ海を彷徨したとき、島々のレストランや食品店で購入したワインはほとんどレツィーナ系の松ヤニで香り着けしたものだった。あの時はやむなく飲んだので、あまり好きになれない。しかし今回ワインリストで指定したイタリアワインは品切れで、ウェイトレスの奨めに従い注文したギリシャの白ワインは良かった。グルメではないから評価もいい加減だが、ともかく適度な辛口で、すっきりした味わいは好みに合うもので、日常的に飲むのにも向いていると思う。
  1時間ほどで昼食を終える。ケバブ14.5€(1,894円)、ミックスサラダ7€(914円)、白ワイン1本19.5€(2,547円)だった。1割程度のコインをテーブルに残す。
上:マーチャント通り。下:グランドハーバー湾口付近から、対岸のリカソリ要塞。
 長い時間機内に閉じ込められていたせいか、少し歩き廻りたい気分だった。レストランのあるマーチャント通りを北西へ向かうとやがて下り坂になり、行く手に真っ青な海が見えた。
  坂を下りきるとT字路に突き当たり、右へ少し行くと海辺に出た。小高いところに展望台が造られているので、階段を登って行った。観光客ばかりだが、それほど雑踏しているわけではない。
  しばらく対岸のリカソリ要塞などを撮影する。快晴のお陰で地中海ブルーが澄み渡り美しい。「これがマルタなのかな。」と思いながらしばし佇んだ。
  海沿いを辿るが浜はなく、ちょっとした崖の上に造られた道路はアップダウンを繰り返しながら続く。遊歩道などないものの独り歩くには充分な歩道が設けられ、交通量も少ないので気持ち良く歩くことができた。
  「ここら辺で右折すれば宿が. . . .」と思ったところは、だいぶ行きすぎていたものの、無事宿へ戻ることができた。7時間の時差があり、機中やイスタンブルの乗り継ぎで余り眠れずにいたし、ともかく昼寝したかった。カーテンを引いて多少室内を暗くする。エアコンは使用せずとも、窓から吹き込むそよ風で丁度良かった。
5.ギリシャ料理店再訪
クルサラ ポートビュー 屋上から見る黄昏時のリカソリ要塞。
  目を覚ますと既に午後7時20分だ。飛行中の睡眠不足などが影響したのだろうか。しかしサマータイムなので表は明るい。晩酌のツマミやミネラルウォーターなどを買おうかと、表へ出た。
  しかし昼に目星を付けておいた食品店はシャッターを下ろし、他を探してみたが何処も閉まっている。漫然と歩いているうちに昼飯を食べたギリシャ料理レストランに行き当たる。此処で晩飯も良いかと思いつつ、ウェイトレスの感じが良かったこともあり、食品店のあり場所など訊いてみた。徒歩5分ぐらいの所にあるスーパーマーケットを教えてくれる。
  辿り着いたのは小規模の(多分)個人経営スーパーだった。ともかく此処でハム244グラム4.03€(526円)、チーズ196グラム2.35€(307円)、ミネラルウォーター1,500cc1.5€(196円)などを調達し、一旦宿に戻った。
  屋上からの夕景撮影を思い付き行ってみると、若いカップルが設えてある椅子テーブルを使って、ワイングラスを傾けていた。ちょっと声をかけて挨拶し、数枚撮影すると後は邪魔にならないよう退散する。
上:アオリイカ(?)のグリル。下:肉厚の断面。
 半時間ほどあれこれ道草を食ったが、あらためてギリシャ料理店のテラス席に落ち着く。お品書きを見て、軽くムール貝などを食べたかったが、入荷していないとのことで、替わりに奨められたのは烏賊(klamari:マルタ語。イタリア語calamariからの借用語か)のグリルだった。これと昼に飲んだギリシャワインを注文。黄昏時に屋外で食事するのは久々だが、気温とそよ風がごく上手い具合だったこともあり、気持ち良く過ごせる。
  カラマリのグリルは濃厚な味わいで旨い。種類としてはアオリイカだろうか。この手の高級イカにはサッパリ縁がないので、比較はできないがともかく満足だった。
  1時間弱で満足の晩飯晩酌を終える。ぶらぶらと散歩気分ながら、寄り道はせずに宿へ戻った。イスタンブルで買い求めたアブソリュートウォッカをミネラルウォーターで割、先ほど調達したハム、チーズなどで半時間ほど飲み直し、安らかに就寝する。
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6.ヴァレッタの二日目
屋上から霞の掛かる地中海の眺望。
  ヴァレッタの夜明けはサマータイムということもあり午前5時ちょっと過ぎだった。一旦目を覚ましたが、ぐずぐずと朝寝を続ける。日常生活では怠惰ながらも一応規則正しく、起床は毎朝3時で、就寝は午後7時半頃を守っている。会社勤めをしていた頃と異なり、なんの制約もないから逆に自制しなければ生活が破綻する恐怖を感じるのだ。しかし旅先は非日常だし、マルタには二週間滞在するのに、行きたい場所などそれほどないことだし。
  6時半になり、カメラを持って屋上へ出てみた。海上には薄く靄が掛かっていたが、上天は今日も快晴だ。数枚撮影後、部屋に戻って昨日の夕刊、今日の朝刊を読む。海外まで旅していながら、日本の新聞を隅々まで目を通すのもどうかと思うが、既に書いたように時間を持てあまし気味だった。
  新聞を読み終わると、昨日の食事などをフェイスブック(以下FBと略記)に投稿したり、持参した「地中海のとっておきの島マルタ」を拾い読みするなどで時間潰しをした。1時近くなり、昨日早すぎで利用できなかったLegliginを目指して外出する。
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7.マルタ料理店Legligin
板書された昼定食。
  辿り着いたときは1時丁度で、案の定先客はなく、店は開店準備中だった。しかしすんなりと席を占めることができ、ウェイターから「昼はおまかせの定食が一種類で、17.5€(2,285円)。」だと、簡単な説明がある。マルタ料理ということではお品書きを見ても、どんなものだか判らないだろうし、おまかせの方が簡単で良い。
  定食に同意し、ワインを選ぶ。リストを見ても判らないが、かなりの品揃えでそれほど高くはない。イタリア産白ワインの辛口でお奨めを訊き、さほど高価ではないことを確認して注文した。
  ワインはすぐもたらされたし、最初の冷製スープはワインの2分後に供された。ガスパチョ風の冷製スープだから、確かに準備時間は要さない一品だ。
左上から順にガスパチョ、カポナータ、メロン・シャーベット、不明、モッツァレーラと何か、シチュー、カルパチョ、ロケット・サラダ、不明、クスクス、不明、デザート
  しかしスープを飲み終わると待たされることなく次の小鉢がテーブルに置かれ、ウェイターが簡単な説明を加える。残念ながら私の英語耳では半分くらいはこぼれ落ち、後の半分もメモなどしなかったので忘れてしまった。イタリア料理のカポナータに似たもので、マルタはイタリアの影響も大きいから、カポナータそのものかもしれない。
  カポナータの次はメロンを丸く整形し、半分凍結状態にしたシャーベットもどきが続く。口直しといったところか。
  その後も続々供され、時としては二皿同時だったりする。それぞれは少量でも、皿数が増えれば胃の腑に占める割合も馬鹿にならない。九皿目で不安になり残りを訊くと、「後は一皿とデザート。」の返事に、何とか完食できそうだと安堵した。
  結局20分ほどの間に、11皿が供された。これは執筆時に画像の撮影時刻から読み取っただけだ。思い返してみればなんだか急かされたような気もするし、落ち着いてゆっくり食べて行けば、向こうもそのペースに合わせてくれたのかもしれない。
  1時間弱の間に、11皿とワイン1本を飲んだから、正に満腹状態で、食後のコーヒーなどは飲む気になれなかった。一休みして勘定にする。定食17.5€(2,285円)、ワイン1本23€(3,004円)で、45€支払い釣りをチップに残した。
  勘定を払うときウェイターに、「定食は毎日メニューが変わるのか?」と訊いてみたところ、その通りだという。10種類の献立を毎日変えるならば、此処の調理人は凄まじいレパートリーの持ち主だ。
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8.Airbnbの宿
上:居間とキッチン。カメラ位置の背後にソファーベッドがある。右手に見えるフランス窓は中庭に面している。中:寝室。下:浴室。大型のバスタブはジェット水流なども発生できそうだが、使い方が判らなかった。左手手前にはドラム式洗濯機。
  明けて6月1日はクルサラポートビューから、Airbnb利用で初めて予約したモダン・アパートメントへの移動する日だ。両所の距離は僅か270メートルで、前所のチェックアウト時刻が10時半で、後所のチェックイン時刻が11時はかなりの好条件だった。20分ぐらいの延長利用は問題ないと思いつつ、一応律儀に10時半ピタリにチェックアウトする。モダン・アパートメントの隣には上手いことにカフェがあり、此処で1.5€(196円)のカプチーノで時間を潰すことにした。
  しかし飲み始めてすぐに声をかけられる。アパートメント・オーナーで、イタリア人の女性デザイナー、アレッシアとデボラだ。
  ちなみにAirbnbは単なる宿泊施設の仲介ではなく、オーナーとゲストがそれなりに相手の人となりを理解しての利用を推奨し、お互い簡単な自己紹介もすることになっている。それ故にデザイナーであることを知ったし、そのプロフィル画像も見ていた。リンク画像の左がアレッシアで右がデボラ。私の方も旅を趣味としていることやFBで使用しているプロフィル画像などを知らせていた。この画像は12年11月14日にブダ・ペストで、大道芸人が連れていた犬と戯れ、彼に撮影して貰ったものだ。犬の何やら当惑したような顔と、リラックスできている自分の表情が気に入って、長いことプロフィル画像としている。
 
 手書きされた利用規則とオーナーの連絡先。  
  熱いカプチーノを何とか飲み下し、玄関の前で知人と立ち話している彼女たちの元へ急ぐ。武骨な板戸を開けると10メートルほどの通路が中庭へつながっていた。二階でこの中庭をL字型に囲む二部屋と浴室が、この日から4泊を過ごす場所だ。通常宿泊施設紹介画像は、実際よりも良さそうに見えることが多く、余り期待していなかったが、今回は期待を上回る居心地の良さそうな部屋であったことを喜ぶ。
  二人は先に立って部屋や設備の簡単な説明をしてくれる。インターネットに接続するためのWi-Fiは地上階でデボラの家族が使用しているものを共用することになった。信号が弱いので窓際でないとつながらないかもしれないといわれる。説明が一通り終わると、手書きされた利用規則を手渡された。連絡先として携帯番号をアレシアがその場で書き足す。最後にキッチンカウンターの上にあるワインを指して、「私達からのプレゼント。」とのことだった。
  しばらく雑談が続く。アレシアは化粧も濃く、煌びやかな感じを漂わせる。通常であればこのようなタイプは敬遠するのだが、彼女はそんな雰囲気と共にどこか飄々としたところがあり、これが親近感を覚えさせることになったようだ。デボラが一緒だったことも良かったようで、話が弾んだ。最後は「バレッタ滞在を楽しんで。」と云い残し二人は去って行く。
  独りになったので落ち着いて部屋を再検分する。想定外の一つに静謐さがあった。バレッタで一番の繁華街に面しながら、部屋は中庭に面し、街路とは隔絶されている。そのため表からの騒音は一切聞こえてこなかった。中庭からは、この建物に居住する人々の話し声が時々流れてくるが、これは長閑で良いものだ。
上左:キッチンカウンター。引き出し式レンジが組み込まれている。上右:レンジを引き出したところ。IHではなくラジエントヒーターなので、使用後すぐにしまうのは万一の火災が恐い。下左:カウンタースツールはガス圧調節式で、坐ったまま好みの高さにできる。下右:プレゼントされたワイン。
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9.ELIA再々訪
 
 
   上:ミックスサラダ。下:ラムチョップのグリル。
  Wi-Fiの接続は窓から少し離れたテーブル上でも使うことができた。メールチェックなどするが、通販の案内程度のものばかりだった。
  12時半になり食事に出かける。こちらでは1時頃からが時分どきのようだが、一番混み合う時刻に行く必要は無いし、早く酒も飲みたい。日本の旅先であれば11時か半頃食事にすることが多い。
  向かったのは既に二回訪れているELIAだ。特別此処が素晴らしいと感じているわけではないが、グルメではないから美味を探求して新たなところを開拓しようとする意欲はないし、不満がなければ同じ店を再訪するのが私のパターンだ。
  既に顔馴染みとなったウェイトレスが笑顔で迎えてくれる。比較的内容に乏しいお品書きだが、あらためて見直し、ラムチョップとミックスサラダに、同じギリシャ産白ワインを注文した。
  まだ開店準備中だったのか、10分ほど待たされて白ワイン、さらに20分ほどでサラダとラムチョップが運ばれてきた。ラムチョップの肉が少々固かったことを除けば、特筆することもなかった。
  結局食事を終えると、2時近くになっていた。勘定はワイン24€(3,134円)、サラダ7€(914円)、ラムチョップ17€(2,220円)。レシートには12:53と印字されている。サマータイムに直さなかったのだろうが、余り時刻などに拘らないのがヨーロッパ流儀だ。
上:卵1ダース。下:魚介サラダ。中央に見えるのは蟹蒲鉾だろうか。
  一眠りした後、夕方になり一昨日のスーパーマーケットまで食材の調達に行く。宿替えしたことで道のりはさらに短くなり、徒歩2分になっていた。ベーコン184グラム3.4€(444円)、魚介サラダ214グラム4.6€(601円)、卵1ダース1.8€(235円)など。卵は1ダースで一繋がりのパッケージになっていたが、切り離して半ダースでも買えたようだ。
  卵を買い込んだのは、せっかくキッチンがあるのでこれを利用して調理しようと思ったためだ。しかし馴れないアパートメントというシステムで、初めて使うキッチン故、最初は料理とも云えない茹で卵を作る。これならば失敗しても食べられないことはないから。
  何とか無難に出来上がった茹で卵と、一昨日求めたハム、チーズをつまみに、プレゼントされた赤ワインで晩酌を始める。1本が空になり、後はイスタンブルから持ち込んだウォッカで補い、気持ち良く酔って就寝した。
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10.バレッタ観光
聖ヨハネ大聖堂内陣。
   明けて6月2日は相変わらず快晴が続いている。ヴァレッタ滞在も4日目となるが、まだこれといったところは何処へも足を運んでいない。そろそろと思ってまず向かったのは聖ヨハネ大聖堂(英語表記ならばSt. John's Co-Cathedral。Co-が着くと准司教座を意味するらしい)だ。
  建設は1573年から1578年で、マルタ騎士団(聖ヨハネ騎士団)による。1565年のオスマン帝国によるマルタ島包囲戦を切り抜けた後だから、このことに対し神や聖ヨハネに捧げた感謝の象徴かもしれない。元々は修道会教会堂であったので、大司教座ではなかったが、1820年代に格上げされ准司教座となった。
  包囲戦後まもなく建設されたため、軍事要塞としての構造が外観に残っている。ファサードから入ろうとしたが、出口として使用されていて、入口は側面の玄関だった。
 上:天井の絵画は教会で一般的なフレスコ画ではなく、大理石を磨き油彩したものだとか。下:床にある大理石でできた墓石。埋葬されている騎士の似姿や紋章が彫られ、所によっては戦記の記載もある。
   65歳以上を対象としたシニア入場料金7.5€(979円)でチケットを購入する。大聖堂としては比較的小振りだが、先述した修道会教会堂として建設されたためだろう。さすがに見物人は多いものの、混雑というほどではなく、マイペースで拝観したり撮影もできる。時刻が早かったのが幸いしたか。
  まずは正面から主祭壇を撮影し、次いで周回しながら各礼拝堂を眺めた。宿へ戻ってから英文ガイドブックを瞥見したところ、それぞれ由緒あるものらしい。しかしこの大聖堂は豪華絢爛が覇を競い合っているような雰囲気で、私のような怠惰で気力に乏しい見物人には疲れるような場所だった。
  この大聖堂で内部装飾や礼拝堂以外で名高いのが、カラバッジョによる二幅の油彩だった。幅が5メートル強の大作が、「洗礼者聖ヨハネの斬首」で、もう一幅は、「執筆する聖ヒエロニムス」だ。美術品としては当たり前ながら撮影は全面的に禁止だ。どちらもカラバッジョらしい色彩が素晴らしいと思う。
上:マヌエル劇場。下:カーマライト教会。
  半時間ほどで大聖堂を後にした。バレッタ クルサラ ポートビューで入手した市街平面図に書き込んでおいた、次ぎの目標はカーマライト教会だった。途中で古風な劇場を見かける。ヨーロッパで3番目に古いとされ、観光対象としても人気の高いマヌエル劇場だった。しかし何となく気が進まず素通りする。後から調べたところ、内部見学はガイドツアーだけだった。他人にあれこれ指示されて見物するのは好みに合わない。
  カーマライト(カルメル会)教会もスマートホンのナビゲーションで辿り着くことができた。遠景で見るクーポラは中々のものだが、内部はごく詰まらないものだった。
  後は目的地もないまま適当に歩き出す。近くに在ったセント・ポールズ・アングリカン大聖堂(St. Paul's Anglican Pro-Cathedral)に立ち寄ってみたが、何か由緒ありげな名前にしては、内部は質素でおまけに撮影禁止だった。ちなみに新聞を読みながら入口そばの椅子に坐って番をしていた気の良さそうなオバサンは、「1€(131円)払えば撮影できる。」と教えてくれた。金額的には全く問題ないが、撮影したくなるようなものは何もなかったのだ。礼を云って退去する。
  しかし教会から正に出ようとした瞬間、背後からオルガンの響きが降り注いだ。踵を返して堂内へ戻ると、内陣右側のオルガン席で白髪の男性が演奏していた。聴衆はほとんどいないから、彼の練習ということなのか。しばらくベンチに腰掛けオルガン曲に耳を傾けた。二曲目は昔CDで聴いたバッハのような気もしたが定かではない。
勝利の聖母教会天井フレスコ画。
    短時間ではあったが、思いがけないオルガン曲のプレゼントにより、気持ち良く教会を出た。市街平面図を取りだし、進むべき方向を思案した。まだ10時40分なので昼食には早過ぎる。このまま北へ進めばすぐ海岸線に達し、そのまま海沿いを歩いてヴァレッタ市街を半周するように歩けば、多少なりとも運動不足の解消にもなりそうだ。
  目論見は半ば当たり半ばはずれた。1時間ほどで二日前にシェア・タクシーで通過した旧市街入口近辺に達したのは予想通りで、この間の景観は期待外れだった。
  一昨日は扉を閉ざしていた勝利の聖母教会に観光客が出入りしている。外観が格調高く気になっていた教会なので拝観することにした。小振りな建物だが上品で古風な感じが漂うのは、1566年に創建された、ヴァレッタ最古の教会だからか。天井のフレスコ画が美しかった。
屋台のパン屋 雑踏するリパブリック通り。
  教会を出て雑踏するリパブリック通りを北東へ向かった。聖ヨハネ大聖堂の入口前には100人ぐらいが行列を作っている。空いているときに見ておいて良かったと思う。ひょっとすると堂宇内に入場できる人数を制限しているのかもしれないが、それならば長時間待たされるだろうし、制限なしであれば混雑に巻き込まれる、どちらにせよ避けたい状態だ。
上:焼き野菜。下:ケバブ。
   まだ12時前だったので、一旦宿へ帰りトイレを使ったり一休みして出直す。この日もギリシャ料理店ELIAへ向かった。12時半ぐらいだったのでまだ半分くらいは空席だった。この日は焼き野菜とケバブにする。ワインは何時ものギリシャ産白だ。
  厨房の準備が半端だったのか、ワインを飲みながら20分ほど待たされ、焼き野菜とケバブが同時に運ばれてきた。焼き野菜は茄子、パプリカ、ズッキーニ、ポルチーニ茸に塩とオリーブ油をかけてオーブンで焼いたようだ。ケバブはドネルではなく挽肉を串に巻いて焼いたシシュケバブ(?)だった。焼き野菜は、「たまにはこんなのも良いな。」と思ったが、自分でも作ろうと意欲を湧かせるようなものではない。ケバブも似たような感想だ。
  料理が運ばれてから、40分ほどで食事を終える。短時間だったのは、料理が来る前にワインがだいぶ減っていたことも影響したようだ。勘定はワイン23€(3,004円)、ケバブ9.5€(1,241円)、焼き野菜10€(1,306円)。
  一眠りした後でスーパーマーケットまで買い出しに出かける。ミネラルウォーター1.5リットル1.5€(196円)、サラミ198グラム1.39€(182円)、パックされたベーコン200グラム2.04€(266円)、など。
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11.スリー・シティーズ
ベーコンエッグ。
  アパートメントで二回目の朝を迎えた。せっかくのキッチンで茹で卵のみは情けないと思い、昨日ベーコンを買い込んだ。これでベーコンエッグを作る。フライパンはあるものの油が見付からなかった。しかしテフロン加工された片手鍋があったので、これを利用して作る。塩は持参したものを使用する。
  塩と醤油は旅の常時携帯品だ。以前はキャンプ用軽量鍋と熱源(電熱パイプヒーター。水に入れて使う)も持ち歩いて、生ソーセージを茹でたりしたが、10年くらい前から止めてしまった。
  糖質制限食者にとっては、通常のB&Bやホテルの朝食だと食べられるものがかなり限られる。その点アパートメントだと、自分で調達したものを利用できることが有り難い。
  ちなみに此処の後で利用したアパートメント2箇所は食パンや塩、油、バター、ティーバッグ、などが用意されていた。AirbnbとB&Bを名乗るならば、朝食に替わるものを提供するということなのかもしれない。しかし利用経験が乏しいから、単なる憶測だ。
  ヴァレッタ滞在も5日目となり少し飽きてきたし、街の外に出てみる気になった。安易に目指したのはスリーシティーだ。グランドハーバーを挟んで対岸にあるヴィットリオーザ、セングレア、コスピークアの3市街をまとめての通称らしい。
上:三位一体教会。下:聖ヘレン門。
  グーグルマップで調べると、徒歩で1時間半ほどだ。家にいれば毎朝12キロを2時間ほどで歩くように心掛けている。しかし旅に出てからはサッパリ歩いていないので、1時間半は手頃なコースだと思った。
  快晴の許、出発したのは9時ちょっと過ぎだった。旧市街を出てから時々スマートホンのナビゲーターで確認しながら進む。10時少し前に双頭の鐘楼があるファサードの立派な教会があった。三位一体教会だ。興味は惹かれたものの、目的地に着くまでは先を急ぐ気持ちがあり、外観を撮影しただけで素通りした。
  三位一体教会から5分ほどで幹線道路と合流すると、途端に歩行が楽しくなくなる。大型トラックが轟音を立てて行き交うし、陽射しは時刻と共に強くなり、汗ばむ陽気だ。かててくわえて、教会以後は景観に魅力的なものがサッパリ見当たらない。せめてもの救いは、歩道がしっかり設けられ、時折吹く乾燥した風が涼味を運んでくれることだった。
  11時近くなりようやく幹線道路から別れることができた。坂を一気に降ると、城壁と立派なゲートが前方に現れる。St. Helen's門だ。おそらくこれがあるために道路幅員を拡張できず、幹線道路は迂回しているのだろう。さらに10分でようやく水辺に辿り着いた。サングレアとヴィットリオーザの間に深く切れ込んだ入り江の最奥部だった。
上左:St. Lawrence's Church。上右:ゴンドラ。ヴェネチアのとは多少形状が異なるようだ。皆船外機を装備している。
下左:係留されているレジャーボートやヨット。漁船は皆無だ。下右:中央にヴァレッタと往復する双胴船フェリーボート。
 
バラッカリフト。
  入り江に向かい左手がセングレア、右手がヴィットリオーザだ。桟橋が設けられ無数のレジャー船舶が係留されているのはヴィットリオーザ側でセングレア側は臨時に係留されているような船を除けば、もっぱら水路としてスペースが確保されていた。
  ヴィットリオーザの岸壁を歩き出すとまもなく、簡易な屋根とベンチが置かれ、数人が待っている。ヴァレッタとのフェリーボート乗り場だった。帰りはこれの利用を即決した。
  1時間弱周辺を歩き回り、テラス席が良さそうなレストランがあればと思ったが、いずれも観光客相手といった感じが強すぎて利用する気にならなかった。喉が渇いたし、フェリーの出るまで多少時間があったので、カフェーで白ワインをグラスで頼んだ。多分1.5€(196円)。適度に冷えたワインが旨い。
  フェリーは安定の良い双胴船だった。簡易な乗船タラップがセットされ、乗り込む際に1.5€(196円)のチケットを買う。12時半に出港し、気持ち良く水上を滑って行った。船室もあるが吹き曝しで屋根もない上甲板のベンチに坐る。好天気ならば此処の方が気持ち良いし撮影場所としても優るのだ。10分ほどでヴァレッタに上陸した。
アッパーバラッカガーデンからの眺望。正面がヴィットリオーザで、先端部分は聖アンジェロ要塞。
  皆がぞろぞろ行くのについて行くと、エレベータがある。旧市街につながるアッパーバラッカガーデンとグランドハーバーの岸壁では標高差が58メートルあり、この辺りではほぼ垂直に切り立っているから、この地形を活用してのエレベータでバラッカリフトと呼ばれている。係員がいて彼から切符を1€(131円)で買い求めた。
  執筆にあたりチケットなどを改めて見ると色々おかしなことに気付く。フェリーボートのチケットには LIFT INCLUDED と印字されている。これならばバラッカリフト利用時に支払いしなくても良いのか。次の疑問は、数多くのクチコミで、「バラッカリフトは上り有料、下り無料。」とされている。しかしリフトのチケットには Round Trip Ticket と記されている。下り無料ではなく、往復切符を買わされるが、売場が下にしかないと云うことなのか。料金が安いので、どうでも良いことだが気になる。
  閑話休題。エレベーターを降りると、公園の中だった。アッパーバラッカガーデン(Upper Barracca Gardens)で、ヴァレッタでも屈指の観光名所だ。その魅力はひとえに眺望で、旧市街を囲う城壁の標高が最も高いところに位置し、眼下にグランドハーバー、正面にヴィットリオーザ、左手には聖アンジェロ要塞があり、その先には地中海が昼の陽光を受けて燦めいていた。
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 12.Legligin再訪
Legliginの店内。パン籠の置かれたテーブルを使用した。
 メモ代わりの撮影だが、撮りこぼしもあったようだ。
  公園を出て旧市街を横切るように進むと、10分足らずでLegliginに着いた。3日振りの再訪だ。ELIAも少し飽きてきたし、「前回定食は毎日メニューが変わる。」と聞いていたので、その変わり具合を見届けたい気持ちもあった。
  1時ちょっと過ぎだったが、オバサン二人が先客だった。軽く会釈し、少し奥の前回使用したテーブルを選んだ。
  ウェイターが顔を覚えていてくれたので、日替わり定食に問題はなさそうだ。同じイタリア産の白ワインを注文する。
  ガスパチョで始まり、全体のトーンは似ているが、少しずつ変更したものが供された。オバサン達の食事もほとんど同時進行だが、供されるものが違ってくる。ウェイターが、「あちらは再訪なので。」みたいなことを英語で説明していた。一見さんの観光客なのだろう。
  1時間ほどで完食・完飲する。量的には前回と似たようなものだろうが、進行具合がある程度判っていたので、寛いだ気分で食べ進めることができた。勘定は40.5€(5,289円)で、45€をテーブルに置き、釣銭をチップとする。
ベーコン入りスクランブルエッグ。
  一眠りの後、夕方に何時ものスーパーマーケットまで買い出しに行く。翌日が日曜日なので、休業の可能性も考え酒を確保する。スウェーデン産のウォッカアブソリュート750ccが13.7€(1,789円)だった。レジで支払うとき、オヤジに明日の営業時間を訊くと、「明日は選挙があるので2時で閉店する。」とのことだ。日本とはだいぶ感覚的に違うようだ。
  晩酌のつまみは、ベーコン入りスクランブルエッグを作った。ベーコンエッグは簡単だし好みに合うものの、つまみとしては不適当に思えた。料理のグレードも目玉焼きに較べれば若干アップしたつもりだ。
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13.ヴィットリオーザ再訪
  明けて6月4日も快晴の朝を迎えた。ベーコンエッグの朝食を済ませ、新聞を読んだり、FBに前日のスリーシティーズ行きを投稿したりで時間が経つ。10時をだいぶ回ってから出発した。
  行く先は前日に引き続きヴィットリオーザだ。昨日は陸路で意気消沈したり、昼飯昼酒に引っ張られて、ろくに見物もしないまま引き返してしまった。マルタで時間を持てあまし気味ということがあるにせよ、いささかお粗末すぎるように思われる。そんな反省と共に、ヴィットリオーザの水辺で昼食など気持ちよさそうだと、予めグーグルマップで検索してみた。目指すはEtienne's Kitchen & Yacht Loungeだ。
上:朝のアッパーバラッカガーデン。下:エレベーターの料金表。
  寄り道をしてシティゲートのすぐ外にある、バスターミナルまで行く。翌日はマルタの古都イムディーナ近郊へバスで移動する予定だ。アパートメントのオーナーからはメールで、「バスターミナルから路線番号61を利用すれば良い。」と知らされていたが、時間に余裕があるので下見しておくことにした。
  マルタのバスは参考書、「地中海のとっておきの島マルタ」によれば、ボンネットバスが主流で、運転手の個性を濃厚に反映した内装など、興味深いものだったらしい。しかし今や昔、現在マルタを走るバスは、社会主義国の国営バスならばかくやと思わせるような、同型式で同じように塗装されたバスだけが走っている。
  案内所の平面図を見ると、乗り場は3グループに別れAが1~13、Bが1~8、Cが1~6まであり、61番はC4からの乗車だった。
  下見を終え、アッパーバラッカガーデンから下りのエレベータを利用する。料金表があったので、切符の印字とは内容が異なるが、「下りは無料」が正しいらしいと納得。
  フェリーでは往復チケットを2.8€(366円)で購入した。割引額は小さいが、システムに興味があった。片道切符は簡単な印字のみだが、往復になるとQRコードが印刷され、乗船時刻や場所などを一元管理することにより、不正乗船を防ぐようだ。  
選挙の応援デモ。いずれも労働党(Partit Laburista)支援らしい。
  対岸に渡り歩き出すと、向かいから揃いの赤いTシャツを着込んだ連中が、大きな旗を掲げて賑やかな鳴り物入りで行進してくる。最初はサッカーのサポーター連中が集まって気勢を上げているのかかと思ったが、どうも雰囲気が違う。昨日スーパーマーケットで聞いた、「選挙」に関係がありそうだ。
  朝から盛んに打ち上げられた(音だけの)昼花火も、選挙がらみのことだったのかと思う。執筆にあたり調べ直したところ、マルタでも例のパナマ文書疑惑が首相の近辺で発生し、政権基盤が不安定になった。この事態を切り抜けるべく、繰り上げて行った総選挙の投票日がこの日だった。結果は与党労働党が得票の55%を獲得し勝利した。
聖アンジェロ要塞の入口斜路。
  話をヴィットリオーザへ戻そう。サッカーであれ選挙にせよ、ともかく大勢が集まって騒いでいるのは嫌いだから、早々と此処から退去した。
  しかし目指したレストランは休業している。第二候補へ向かったが、此処も駄目だ。かなり意気消沈したが、このまま踵を返すのも情けない。まずはヴィットリオーザで一番の見どころと云える、聖アンジェロ要塞へ向かった。
  半島状になっているヴィットリオーザの先端部分にある。元々はナヴァ家の邸宅があったが、1530年の騎士団到着後に騎士団長の住居となり、同時に要塞として強化された。オスマン帝国による1565年のマルタ大包囲戦では激戦地となっが、この大包囲戦は数年前から予測されていたため、要塞も実践的に強化されていた。
  約半年間におよぶ激しい攻防の末、この厳しい戦いに何とか勝利したことを記念し、旧名ビルグからヴィットリオーザ(Vitorja:マルタ語で勝利)と命名された。
  そんな歴史を持つ要塞故に、武骨極まりない姿を現在でも見ることができる。戦時には攻撃側を苦しめたであろう斜路を登りきると、一転して明るい空間となった。切符売り場があり、シニア(60歳以上)割引で5€(653円)だった。
聖アンジェロ要塞望楼からの景観。上左:ヴィットリオーザ・ヨットマリーナ。上右:中央部に見えるのは対岸のセングレアにある聖ジュリアン聖堂。下右:グランドハーバー越しに見るヴァレッタ。右端が聖エルモ要塞。
  多少の展示もあるようだが、博物館的な所に興味はなく、ともかく高い方へと通路を選ぶ。辿り着いた望楼からの景観は素晴らしかった。しかし望楼の四周を巡り、10ショットほど撮影すると他にすることがなくなってしまう。此処にカフェなどあれば、景色を眺めながらのコーヒーやワインも良さそうだが、あいにくそんなものはない。運営する側からすれば、望楼の上まであれこれを運んできての営業は難儀なのだろう。
  20分ほどで要塞から出る。この日の見物はおしまいにして、ヴァレッタへ戻るべくフェリー乗り場の方へ移動した。冷えたワインでも飲めればと思うが、昨日軒を並べて営業していたカフェは二つとも閉まっている。日曜日のせいなのか、はたまた総選挙による臨時休業なのか、ともかく諦めるしかない。
上:ミックスサラダ。下:クアトロフォルマッジ。
  ヴァレッタに戻り、この日の昼食はピザにした。好みのメニューだが、糖質制限食を実行中のため久しく食していない。しかしたまには体に悪いものを食べても構わないだろうし、マルタはイタリア料理の影響も強いところなのだ。
  ELIAのそばにある軽食堂は、路地にテラス席をだし、此処でピザを見かけて気に留めていた。迷わずこの店へ向かう。お品書きを見てピザはクアトロフォルマッジにした。カプリチョーザにも惹かれたが、名前の示す通り、どんなものが供されるか予測できない。無難なところでフォルマッジを注文、後はミックスサラダとマルタ島産白ワインを1本。
  この島でワインを生産しているとは知らなかったが、地酒があるならばこれは試さなければならない。The Maltese Knightといかにも騎士団にあやかったような命名のワインだったが、適度に冷やされ、キリッとした飲み口はピザとの相性も良く、気持ち良く飲むことができた。ちなみにピザの出来映えは今ひとつだったが、グルメではないのだ、これもおいしく食べることができた。
  40分ほどで全て平らげ、勘定はピザ9€(1,175円)、サラダ5€(653円)、ワイン18€(2,351円)だった。35€(4,571円)支払う。
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 第2部:古都イムディーナ
1.民泊移動
    6月5日にいたり、ようやくヴァレッタから古都イムディーナに移動することになった。宿探しはAirbnbを利用し、徒歩1時間ほどの郊外にある街、Haz-Zebbug のビューティフル・ファミリイ・フレンドリイ・アパートメントを5泊予約した。
上:ミックスサラダ。下;ビーフフィレのペッパーソース。
  チェックイン開始が午後2時で、現在の宿が10時までのチェックアウトだから、このギャップに多少悩む。結局オーナーにメールにより、有償(時間割計算により20€(2,612円)、)で12時までの滞在時間延長を要望した。返信がまもなくあり、12時までならば無償で良いとのありがたい内容だ。
  これで移動日の予定は12時にチェックアウトし、昼飯昼酒で約1時間。その後にバスターミナルに移動し、1時半頃のバスに乗ればアパートメントに着くのは2時頃になるだろう。
  このアパートのオーナーとも数回短いメールをやりとりし、利用するバス路線番号や、下車停留所名などを訊いていたので、あらためて到着予定時刻も知らせておく。
  12時になり、忘れ物などないか最終点検後、ポチ袋に10€(1,306円)入れ、表にありがとう(Thank you)純一(junichi)と書いて、鍵と一緒にテーブルの上に置いた。キャリーカートを引っ張り、 徒歩5分でEliaのテラス席に落ち着いた。
  この日の注文はミックスサラダとビーフフィレのペッパーソースにギリシャ産白ワイン1本。ちなみにビーフフィレは日本でいえばビフテキだけれど、此処のお品書きには Bifteki:grilled beef burger となっていた。
  食事中に旗やプラカードを持った人を含むデモ隊もどきが通過する。書かれた内容などは判らないが、総選挙の祝勝デモらしい。鳴り物なしだし、別段大声など出さずにぞろぞろ歩いて行くだけだが、食事中の身にしてみれば迷惑な話だった。
  1時20分に食事を終える。勘定はミックスサラダ5€(653円)、ビーフフィレ23€(3,004円)、ワイン19.5€(2,547円)だった。ちなみにビーフフィレはお品書きの中で最高額メニューだった。
  バス停まで行くと、61番のバスが正に発車しようというタイミングで、走れば間に合ったかもしれない。しかしこんな時に走るのは嫌だし、事前に調べたバス時刻表によれば20分間隔のはずだ。しかしバス停で待つ祝勝会帰り風の人々は次第に増えるが、バスの方は20分を大幅に過ぎても姿を見せない。
  40分ほど待ってようやくバスが到着すると、待っていた人が順番など無視して我勝ちに乗車口へ殺到する。乗り遅れてもう40分待たされるのは堪らないから、恥も外聞もかなぐり捨て、乗車口へと突進した。もみくちゃにされながらも、何とか運転手から1.5€(196円)の切符を買い座席を確保できた。アパートのオーナー、ロザリオさんに電話し、「バスが遅れ、今ヴァレッタを出発した。」と、到着の遅れを知らせる。
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2.バス停留所Sciortinoの奇々怪々 
  バスはワンマンで料金先払い。全部上方にある電光掲示板で停留所が表示され、各所にある押しボタンにより降車の意思表示をする。 ロザリオさんから教えて貰った停留所名Sciortinoは、予めメモフォルダーへ書き写してあり、それで確認しながら乗り過ごさないように用心する。
  満員だったバスも、停留所ごとに下車する人が多く、車内が空いてきて電光表示も見やすくなる。しかしSciortinoが表示されないまま、「此処が終点だから降りろ。」と運転手に促される事態となった。メモフォルダーを見せると、「乗り過ごしているから戻れ。」と云い、折良く来たヴァレッタ行きバスへ誘導してくれた。
  納得は行かないながらも、仕方なく1.5€の切符を買いなおし、今度こそはと表示板に集中する。Sciortinoが今度は表示され、降りるとロザリオさんが出迎えてくれた。乗り過ごしたことを云うと、「しばらく前までは此処が終点だったから、そんなトラブルも全くなかったんだ。」との返答だった。
  これだけならば単なる不注意な見落としだが、翌日になり謎が深まった。この日は徒歩でイムディーナまで行き、帰りにロザリオさんから教えて貰った109番を利用すべく、路線図にSciortinoが書き込まれていることを確認してからそこで待った。イムディーナの旧市街を出て、坂を下ったところにある停留所だ。乗り込む際に運転手へメモフォルダを示して確認すると、そこへは行かないとの返事だ。書き方が悪かったのかと諦めて徒歩で帰った。
  翌々日はイムディーナの旧市街から109番を利用する。前回見せたメモはヴァッレッタから61番を利用するために用意したので、Valletta も記載されていたので誤解されたかと、 Sciortino を単独で書いて置いた。しかし運転手は首を横に振る。駄目元で乗ることにし、1.5€(196円)の切符を買う。
  注意深く電光掲示板を見ていたが Sciortino は表示されないまま、乗り過ごしたことだけは確実になってしまった。ともかくバスを降り、対向車線のバス停で、再度路線図を確認した。109番路線は1時間に1本程度の運行だが、幸い5分待ちでバスが来た。
  再度メモを見せるが、運転手は駄目だという。車内に客は居らず、後続する車もなかったので、バス停の標識を指し、「此処にSciortinoと書いてある。」と主張し、運転手と押し問答になる。面倒になったのか運転手は、「ともかく乗れ。」といったが、切符は売らなかった。
  次の街に入ると広場があり、バス停で停車すると前方を指して、「あそこに警察があるから、そこで訊け。」と云う。不本意であったが、逆らうこともできず下車したが、警察官は不在で訊くこともできない。また一時間待つのも冴えないし、タクシーの利用なども考え始めたが、ともかくバス停の時刻表を見ると、209番もSciortinoを通過するし、そのバスは目の前に停まっている。
  ドアは開いているが、乗客も運転手もいない。数分後に広場を渡って運転手が姿を現した。再度メモを見せるが、彼も否定する。しかしバス停の路線図を示して粘ったところ、彼は広場に停車していた別のバスへ訊きに行き、ようやくOKと云うことになった。
  今度も掲示板を注視したが、しばらく走るとあっけなくSciortinoが表示された。しかし路線図に記載され、かつては終点だった停留所が、複数の運転手に知られていないのはなぜか?
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3.フレンドリイ・アパートメント 
  時間をSciortinoバス停に降りたところまで戻そう。 ロザリオさんと握手を交わした後、彼が先に立って案内してくれる。「少し回り道だが」といいながら、食堂はあそこに、土産物は此処、食料品店は、など教えてくれながら歩く。それでも5分でフレンドリイ・アパートメントまで辿り着いた。
  街路に面したドアを解錠してはいると中庭があり、突き当たりの部屋が提供されたものだった。玄関を入るとすぐがリビングルームだ。中に入ると職業を訊かれた。既に退職していると答え、それぞれ簡単な自己紹介が始まる。私が48年の7月生まれで、彼が同年の9月でほぼ同じだ。その他体格なども似たようなもので、初対面にもかかわらず、それなりに親近感が湧き上がる。
玄関側から見たリビングルーム。奥にキッチンとさらにその向こうはパティオ。 パティオから見たリビングルーム。突き当たりは街路へつながる中庭。
寝室。窓の外はパティオ。ドアの向こうはサブの浴室。  サブの浴室で便器とシャワー洗面台が設備されている。
メインの浴室。左側に大型のバスタブ。 子供部屋と二つ目のパティオ。
  彼が先に立ちアパートメントの設備に関し、簡単な説明をしてくれた。目新しい設備もあまりなく、説明の必要もないようなものだが、ガスレンジは着火方法を実演し火が点かないと、「ガスボンベが空のようだ。すぐスペアと替える。」と云った。少々驚いたのは、エアコンにメータが設備され、使用時間に応じて追加料金が発生することだった。金額的には大したことがなかったと思うが、失念したし利用もしなかったので現在となっては不明だ。
  彼が去った後、あらためて各部を観察しながら撮影した。カップルと子供二人で利用すれば最高のコストパフォーマンスを発揮しそうだ。リビングルームは約15畳で、奥の方がキッチンでさらに突き当たりはパティオと呼んだら良さそうな中庭になっている。
 浴室は二つあり、メインの方にはバスタブが備えられ、どちらにもトイレがある。寝室は10畳ほどでダブルベッドがあり、それ以外に子供部屋と云ったら良さそうな6畳の部屋には二段ベッドが置かれ、台所とは別のパティオに面している。
  キッチン設備はガスレンジが、小、中、中、大の4口で火力は強力だ。他の熱源としてはトースター、オーブン、電子レンジなどがある。大型の冷凍冷蔵庫も備えられていた。今朝まで利用したB&Bにもオーブンがあった。ほとんどが電子オーブンレンジの日本と、文化の違いを感じる。
  食パンと林檎、ハム、牛乳1リットル、ミネラルウォーター2リットル、バタ、ティーバッグ、ネスカフェのスティックなどが宿からのサービスとして準備されていた。B&Bと称しているが、毎日朝食を提供する代わりに、この程度のものを用意してあるらしい。
 4.イムディーナ訪問
   明けて6月6日は相変わらずの晴天だった。6時に起床し、冷蔵庫のハムと、ヴァレッタから持って来たサラミを炒めて朝食にする。食パンと林檎は糖質制限食故に、昨日ロザリオさんへ返却済みだ。
  この日はイムディーナまで行くつもりだが、グズグズ時を過ごした。インターネットで前日の夕刊と当日の朝刊などを読んでいると雷鳴が響き渡り、次いで大粒の雨が降り出した。かなり強い降りだったから、出発が遅れたのは幸運だったと云える。
イムディーナのカテドラル、聖ポール(パウロ)教会。
  11時になりだいぶ雨も小降りになったので、出かけることにした。徒歩で1時間ほどの道のりなので、運動不足の解消と、途中の景観への期待、さらには古都イムディーナの姿を徐々に接近しながら見ることにした。
  ちなみにイムディーナは英文ガイドブックやグーグルマップでは MDINA と記載されている。しかしこれをイムディーナと発音するのは無理に思われた。そこでグーグル翻訳を利用し、「イムディーナ」をマルタ語に変換したところ、 IMDINA となる。つまりはマルタ人はイムディーナと呼んでいたのを、英国統治時代勝手に表記をMDINA とし、しかし発音はオリジナルを残したのだろう。
  閑話休題。小雨の中を持参の折り畳み傘を差して出発した。マルタに来てから、ほとんど快晴の日ばかりだったので、「傘の持参など不要だったか。」と思い始めていたが、間違いだったようだ。
上:イムディーナ門。下:聖パウロ教会。
  雷雨ならばそれほど長いこと降るまいと見込んだのは外れ、シトシト降りだが止まなかった。途中の景観も期待したようなものではない。しかし交通量の少ない田舎道はノンビリ歩くには向いていた。前方の小高い丘がイムディーナで、その中心部にある聖パウロ教会が次第にその輪郭を大きくする。
  丘の麓で路線バスも走る街道と合流し、交通量は一気に増えた。上り坂が終わると広場があり、その向こうに空濠に架かる橋を渡ると石造りで格調の高いイムディーナ門だった。
  一般車両は橋の手前で規制され、門から先の街路は徒歩でなければ観光馬車を利用するしかない。これは車輌規制がほとんどないヴァレッタと大違いで有り難いことだ。ちなみに観光馬車などに乗る気は全くなかったので、料金などにも興味はなかった。
  しかし執筆してみると興味が湧き起こり、検索してみた。イムディーナでは見付けることができなかったが、ヴァレッタならば一般的なコースで35€(4,571円)~45€(5,877円)と記載されたページが見付かった。イムディーナの面積は8万平方m弱と、東京ドーム二つより狭いところだし、馬車の通行できない狭い路地も多いから、もっと安いのかもしれない。
  ともかく旧市街に入ると道幅は狭くなり、直線部分も少なくなる。外敵が城壁内に侵入したとき、防御に適するように9、10世紀のアラブ時代に形作られたようだ。今となっては当初の目論見など関係なくなっているが、迷路を彷彿させる街路を歩くのは楽しい。
  メインストリートを行くと、街のほぼ中心に聖パウロ広場があり、それに面して聖パウロ教会のファサードが聳える。拝観料は5€(653円)だった。脇の入口から入り、再訪するつもりだったので一通り見て、正面玄関から退出する。ヴァレッタの聖ヨハネ大聖堂と同じ人の流れだ。
  メインストリートの突き当たりがバスション広場だ。城壁越しにマルタ島の北半分が一望され、遙か彼方は地中海なのか霞とも判然としない。此処もまた天候が良いときに再訪することにした。
狭い路地はカーブしていたり屈曲していたりで見通しを悪くするように作られている。
  雨で出遅れたから、時刻は既に1時近くなっている。見物は切り上げ食事場所の選定にかかることにした。狭い地域で、事前にグーグルマップにより目星を付けた店の数も少ない。結局メスキータ広場のドン・メスキータに落ち着いた。
  ちなみにメスキータとはスペイン語でモスクを意味し、中でも取り分け有名なのがコルドバにあり、世界遺産にも登録されているが、イムディーナの広場がスペインと関係あるのかは判らなかった。しかしヨハネ騎士団(マルタ騎士団)に対し、マルタ島を斡旋したのは教皇クレメンス7世と神聖ローマ皇帝カール5世で、カール5世はスペイン国王でもあったから因縁は深そうだ。
  ドン・メスキータはこぢんまりした食堂で、二人席、三人席、四人席のテーブルが全部で四つだけだ。突き当たりはバーカウンターがあり、雰囲気的にはスペインのバルを彷彿させる。先客は年配の婦人が二人で、お茶を飲んでいた。
  お品書きはラップ類、サラダ類、プラッター類、ディップ類の4グループに別れ、ラップとかプラッターがどんなものなのか良く判らない。ラップならばともかく何かが包んであるのだろうと、ソーセージやチーズ、乾燥トマトなどが材料として記されているマルチーズ・ラップを選び、後はシーフードサラダとマルタ産白ワイン1本を注文した。
  余り待たされることもなく、料理とワインがテーブルに並んだ。シーフードサラダはスモークサーモンやムール貝、小海老、胡瓜、トマト、ルッコラなどをドレッシングで和えた、ごく一般的なものだが、ワインのツマミには好適だった。マルチーズ・ラップの方は前記の材料を、ピザパイの生地みたいなもので包み、ホットサンドプレスで焼いたのか筋状の焦げ目が付き、これも初めて食するものながら好みに合うものだった。
  サラダの方は持参している箸を使って食べる。ナイフとフォークでは少なくとも私には食べにくいから、箸箱に入れてここ数年は携帯するようになった。魚を食べるときはなおのことだ。
シーフードサラダ。 マルチーズ・ラップ。
  1時間強で全てを平らげ、満足して勘定にする。サラダ9.8€(1,280円)、ラップ7.8€(1,019円)、ワイン16€(2,090円)だった。35€で支払い、コインを足してチップにする。
  約1時間掛けて徒歩で戻る。バスに関するトラブルは既に書いた通りだ。一旦宿へ戻り、レジ袋を用意して近所の食料品店へ行った。昨日ロザリオさんと一緒に立ち寄ったとき彼がオヤジに、「ウチの客だからよろしく。」みたいなことをマルタ語で云ったようだが、そのせいか愛想良く迎えてくれた。
  ミネラルウォーター2リットル0.5€(65円)、アブソリュートウォッカ750cc13.5€(1,763円)、チーズ200グラム2.6€(340円)、卵1ダース2.9€(379円)、瓶詰めオリーブ2€(261円)など。晩酌のツマミはスクランブルエッグに、オリーブの実やチーズなど。
 5.軽食堂ドン・メスキータ
  6月7日はまた青空が蘇った。余り早く出かけてもしょうがないので適当に時間を潰し、9時半を回ってから歩き始める。運動不足解消も兼ね昨日と同じ道筋を辿った。陽光を浴び景観がどのように変化したかにも興味があったのだ。
  沿道の花に視線が向いたのも、晴天と関係があったと思う。地中海性気候の地において、初夏の野草が咲き誇るのを見ると、95年に旅したエーゲ海が懐かしく思い起こされる。あちらの方が耕作されていない原野は遙かに広かったけれど。
イムディーナに向かう沿道で見かけた花々。
やはり青空に白雲を背景として見栄えが良くなる。
  イムディーナ門に辿り着いたのは10時40分頃だった。晴天のためか、昨日より観光客が増えているようだ。大別してみると、観光バスで訪れる団体客が一番多く、次いで乗り降り自由なホップオン・ホップオフバス利用者で、やはり個人で旅程を組んでいる人は少ないように見える。
  ちなみにホップオン・ホップオフバスの料金は20€(2,612円)で30分置きに運行し、主要な観光地17箇所を巡るらしい。オープントップの二階建てバスが使用され、日本語を含む16カ国語のオーディオガイドが利用できる。確かに便利で安価だと思うが、私が利用することは絶対にないだろう。
上:中央に聖ロケ教会の鐘楼。
下:Is Sur小路からの聖ロケ教会。
上:IL Villegaignon小路。
下:San Pawl小路
   見通しの悪い小路歩きをしばらく楽しんだ。シーズン最盛期ならば多分このような小路にも人が溢れるのだろうが、6月の上旬は余り人に出会うこともないし、撮影しようと思ったとき通行人を邪魔と感じれば、しばらく待つだけで無人の街路を撮影することができた。
上:シーフードサラダ。下:マルチーズ・プラッター。
  しかし何しろ狭いところなので、半時間ほど歩き廻れば興味を惹かれるような小路は一通り通過してしまった。これが写真愛好家で、少しでも良いショットを撮ろうと情熱を燃やす人ならば、さらに歩き廻ってあれこれ探すのだろう。
  あるいはヨーロッパの古い建築に造詣が深ければ、沿道に混在するノルマン様式とバロックを見分け鑑賞して飽きることがないかもしれない。ところがそのどちらでもない私は、「今日の見物はこれで充分。」と、昼飯・昼酒の方へ進路を転換した。昨日に引き続きドン・メスキータを訪ねる。
  小さな店で昨日の今日だから、ウェイターは私の顔を覚えていたようで、親しみの籠もった笑顔が浮かぶ。昨日と同じ隅のテーブルを選んでお品書きに目を通した。プラッター類がどんなものか良く判らなかったが、使用材料として記されているのはマルタソーセージ、オリーブ、チーズ、ツナなどだから、ワインのツマミにはなりそうだし値段も8€(1,045円)と手頃(安いし多分量的に多過ぎることはない)だ。これに昨日同様のシーフードサラダと白ワインを注文した。
  ちなみに Platter とは本来大皿のことだけれど、これから派生して大皿に盛られたオードブルなどをビュッフェ・スタイルで取り分けるような料理や、さらには盛り合わせになったオードブルなどをも意味するらしい。
  10分強待たされて運ばれてきたプラッターは概ね予想通りだった。外れたのは量がかなり多いことと、炭水化物がかなりあれこれ使用されていることだが、たまにはこんなのも良いだろう。味わいなどに不満はなく、これとシーフードサラダでマルタ産白ワインが進む。
  料理が運ばれてきてから1時間ほどで総てを綺麗に平らげることができた。勘定はプラッター8€、サラダ9.8€、ワイン18€(2,351円)だった
週末に祭があるらしい。 街の方々で飾り付け作業が盛んに行われていた。街で一番大きな教会が聖フィリッペを祀るものなので、此処の守護神なのだろう。
上左:アパートのカトラリー入れで巻き簀を思わせるようなものを4枚も発見。友人に画像付きメールで訊いてみたら、ランチョンマットだろうとの回答だった。
 6.眺望レストラン クーギース
野道で乗馬の女性と擦れ違った。
  6月8日も晴天が続いた。朝のうちに食品店で買い物を済ませる。ミネラルウォーター2リットル0.5€(65円)、ミネラルウォーター500cc0.75€(98円)、ティーバッグ2.9€(379円)、ウォッカ750cc11€(1,437円)など。
  10時を回って3度目のイムディーナに出かける。実のところ改めて見たいところなどないけれど、一日アパートにくすぶっていても仕方ないし、ちょっとした運動として片道1時間は悪くない。全く同じ道を3往復するのも芸がないと、グーグルマップで平行する道を探し、スマートホンにナビゲートさせることにした。
  表通りへ出てみると、昨日も進行中だった祭の飾り付けがたけなわだ。サンフィリッペ祭とでも云うのか。聖フィリッペ教会は表通りの終端部にファサードを聳えさせている。昨日までは正面玄関が閉じられていたが、今朝は大戸が八の字に開かれていた。
  一応覗いてみたが、通りにはあれこれ飾り付けをしているが、教会の内部は目立ったものもなく、ひっそりと静まりかえっていた。
  教会を出てイムディーナへ向かって歩き出した。道筋を変えてみたもののこれと云った収穫はなく、何となく貧弱な感じのする耕地の中を淡々と進む。印象に残ったのは乗馬の女性と擦れ違ったことぐらいだ。ちなみに環境的に乗馬向きの場所が多いマルタでは、あちらこちらに乗馬クラブがあり、カントリー乗馬ツアーが2~3時間で60€(7,836円)と云ったインターネット情報も散見する。
   閑話休題。イムディーナ丘陵(?)の麓で街道に合流し、そこから6分ほどでイムディーナ門に達する。門をくぐるとメインストリートを直進し、北端のバスション広場まで行った。展望台のある広場だ。しかし展望台を目指したわけではなく、広場に続く路地をちょっと入った所にあるレストラン、クーギースが目当てだった。  
テラス席中央の柵際に席を占め、ワインを飲み始める。
  食事場所としてドン・メスキータも気に入ってはいたが、二日続けたので多少飽きたし、お品書きの内容が貧弱なことに加え、せっかくの好天気ならば外で食事を摂りたかった。その点でコーギースはインターネットでの評判も良かったし、展望台と隣り合わせのような城壁上にテーブル席の一部がある。
  辿り着いたのは11時半で、店内は閑散としている。一応営業は開始していたものの、食事ができるのは12時を過ぎてからだった。しかし半時間をかけて見たいものや行きたい所はない。飲み物は供されるので、ワインを飲みながら良い場所を確保しておく方が得策だと判断する。城壁上テラス席の柵際で、一番眺めの良いテーブルに落ち着いた。
  室内部分もあるが、アラブ時代のタウンハウス遺構を利用したり、ノルマン時代の構造が残ったりしている、かなりのアンティークな店だった。
マルタ産白ワインカラバッジョ。 テーブル脇の柵に止まって餌を狙う小鳥。
上:マルチーズ・プラッター。皿の右上から時計回りに、乾燥トマト、アーチチョーク、オリーブの実、ビギッラ(豆のペースト)とガレッティ(クラッカー)、中心にソーセージとペッパーチーズ。下:ウサギのシチュー。
  お品書きはマルタ語名を筆記体風フォントで印字し、その下に英語の素材名などが活字体で記されていた。一通り眺めてから注目したのはウサギのシチューだ。ウサギはマルタ伝統料理素材の一つらしい。日本では中々食べる機会もないしメインはこれに決めた。
  しかしシチューはかなり時間がかかるとウェイターに云われ、繋ぎのおつまみはマルチーズ・プラッターにし、ワインはマルタ産カラバッジョ(ブランド:葡萄はシャルドネ)の白にした。
  ワインを飲みながらスマートホンのフリーセルで時間を潰す。12時を回ってマルチーズ・プラッターが運ばれてきた。客も次第に増える。一番乗りである必要は無かったが、早めに来た方が絶対に良かったと思う。
  12時50分になり、ようやくウサギのシチューが登場した。ウサギを食べるのは2011年に旅したブルガリア以来となる。あの時は肉の中に残っていた散弾を力一杯噛み締めた結果、左側奥歯の一本が縦に割れてしまった、文字道理痛い経験だった。時を経ればそれも懐かしく思い起こされる。
  途中でワインが空になる。料理を待つ間に飲んだ分、足りなくなったわけだ。同じワインのハーフボトルを頼んだが欠品していた。代わりに同じくマルタ産のISIS(ブランド:葡萄はシャルドネ)のを貰った。
 50分ほどかけてビギッラとガレッティを少し残したもののほぼ完食し、ワイン一本半が空になる。勘定は締めて60.4€(7,888円)と多少高めだった。店のランクがドン・メスキータより高級で、ワインを半本追加したせいだろうが、結果的に充分満足な昼食だった。
7.イムディーナ最終訪問
イムディーナ行きのバス。マルタで見かけた路線バスは総てこのスタイルだった。
  6月7日は Haz-Zebbug 滞在の最終日で、翌日はヴァレッタに舞い戻るつもりだ。しかしだからと云って新たな行く先も思いつくはずもなく、結局はイムディーナを再訪する。そして初回は通過しただけに等しいカテドラル内部などをもう少し丁寧に見ようと思う。後は何時もの昼飯昼酒ができれば満足だ。
  9時半を回ってアパートメントを出発した。今回はバスを利用してイムディーナまで行く。バス路線は多少回り道をしていることもあり、着くまでに46分を要したのは意外だった。徒歩と大差はない。
上:聖パウロ大聖堂の主祭壇。下:バスション広場の展望台から北方を望む。
  イムディーナ門から聖パウロ広場までの道は何度も往復しているのですっかり馴染み、我が街と云った親しみさえ湧いてくる。大聖堂博物館で5€(653円)のチケットを買い、大聖堂横手の入場から堂宇内に入る。
  しかしこの日も何となく気分が乗らず、精神を集中してみることができない。結局堂内にいたのは10分ほどで、あっけなく退出してしまった。
  見物の最後にバスション広場まで行き、展望台からの眺望を楽しむ。前日すぐ隣のレストランテラス席から眺めたときは、低い位置に雲がかかり海が見えなかったが、結局今回のイムディーナ訪問ではこの日が一番視界良好で、地中海まで見渡すことができた。踵を返し昼飯にする。
  バスでイムディーナに着いたとき、一軒様子を見に行ったレストランがあった。Bacchus Restaurant Mdinaという名で、イムディーナ門を入ってすぐの左手にある。トリップアドバイザーのクチコミ評判でもかなりの高評価を得ていた。
  行ったのが10時半だったため、開業準備中だったが、中は覗かせてくれた。かなり高級感のある大広間と、その外には視界こそ塀に遮られているが、居心地の良さそうなテラス席がある。この日も快晴だから、こんな屋外での食事はご機嫌だろう。営業時間を訊くと、食事は12時半からだった。
上:チキン・シザースサラダ。下:シーフードプラッター。
  大聖堂見物が余りにも短時間で終わり、バスション広場の展望台でも時間を取られなかったので、時刻はまだ11時をちょっと回ったばかりだ。バッカスに魅力を感じつつも、そのために1時間半待つ気にはなれなかった。と云うことでこの日もまた早い時刻から食事のできる、ドン・メスキータに落ち着いてしまう。
  レパートリーの貧弱な軽食堂なので、3回目ともなればほとんど選択の余地はない。メインをシーフードプラッターにしたので、サブはシザースサラダに落ち着いた。
  ワインはこれが最後だからとリストを見直した。この中では少し高めの Hauteville にしてみる。一応 D.O.K(特定産地保証。マルタ語の略されたもの)のワインだ。
  料理2種とワインは、注文してから10分ぐらいで運ばれてくる。材料さえ用意しておけば後は和えるだけだから、早くて当たり前かもしれないが、それでも待たされずに飲食できるのは気持ち良い。ワインと料理の組み合わせも正解だったようで、楽しみながら食が進んだ。
  この店は地下にも客席があり、トイレもそちらに付随している。これを利用したとき、部屋の片隅にパイプ椅子が積み重ねられていることに気付いた。数十脚あったから、この店でも前の広場にテラス席を展開することがあるようだ。気候的に云えば真夏の暑い時期より、今の方が適していると思うのに残念だった。
  1時間強で全てを平らげたが、まだ12時半だし、胃袋にも余裕があったのでカプチーノを追加注文する。勘定はチキン・シザースサラダ8€(1,045円)、シーフードプラッター10€(1,306円)、ワイン21€(2,743円)、カプチーノ2.5€(326円)だった。45€(5,877円)支払う。
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 1.ヴァレッタのアパート・バレッタ騎士団(Valletta Knights)
   6月10日はヴァレッタに戻る日で、好天気が続いているのは有り難かった。(最終)チェックアウト時刻の10時に、オーナーのロザリオさんが姿を現した。4泊を快適に過ごせたお礼などを述べ、しばし雑談の後に握手を交わした。彼は中庭を通って門まで行き送り出してくれる。
  徒歩3分のバス停で10分ばかり待ち、ヴァレッタ行きに乗車した。割に混んでいたが坐ることはできる。乗り過ごす心配がないので、寛いだ気分であまり面白くもない沿道風景など眺める。
外壁に埋め込まれたキー保管庫はナンバー錠になっている。 保管庫の扉が手前に開いた状態。ウサギのキーホルダーと鍵が入っていた。
  バスを降りて600メートルほど離れた今日の宿、アパート・バレッタ騎士団(Valletta Knights)へ向かった。オーナーが判りやすい道案内メールをくれていたし、スマートホンのナビゲーションもあったため、方向音痴でも間違うことなく辿り着くことができた。
  此処の鍵管理システムはこれまでと異なり、外壁に固定されたキー保管庫を介するものだった。玄関ドアそばの、若干目立たない所に金属製の小型保管庫があり、前面のスライド扉を押し下げるとダイヤル錠が露出する。予めメールで知らされた番号(今回は2367)を合わせ左側のレバーを押し下げると保管庫の扉が手前に開いた。
  このシステムの利点は、受け渡し時刻の調整などが必要ないため、チェックインは前泊者の退去後に清掃が終わっていればいつでも良いことだ。極端に云えば未明から深夜まで構わない。しかしオーナーなどとの人的接触が全くなかったのは一抹の寂しさを感じさせられた。
   室内へ入る。これまで利用した二つのアパートに較べると、かなり狭く薄暗い。窓は玄関ドアの脇に小さなものと、さらに小さな換気口があるだけだ。元々半地下の倉庫を改造したのかもしれない。浴室(シャワーと便器だけ)では乾燥機が大きな音を出して稼働中だった。後になって気付いたことだが、部屋利用の注意書きには、「乾燥機の騒音が気になるならば、運転を止めても良いが、退出時には稼働させて欲しい。」と記載されている。半地下のため湿気が溜まりやすいのかもしれない。
  ともかく贅沢を云わなければ二泊をそこそこ快適に過ごせると見極めを付けた。インターネットでメールをチェック後、買い物に出かける。ともかく酒の調達は絶対だし、ツマミもある程度欲しい。グーグルマップによれば2ブロックばかり行った至近距離に食料品店があるはずだ。
  しかしいざ出向いてみると、食料品など商うような店は皆目見当たらない。ちなみに執筆にあたり、グーグルマップを再度調べた所、どうやら通りを一本間違えていたようだ。近いからと油断し、スマートホンのナビゲータを利用しなかったのが良くなかった。方向音痴の悲しい所だ。
  しかし収穫もあった。パノラマという名のレストランが見付かった。海を見ながら食事ができそうだ。なにしろ海に囲まれたマルタに来てから10日以上たつのに、未だにそんな食事を実現できずにいた。
  中に入って声をかけると、マネージャー風の男が顔を出した。飲み物は出せるが、食事は12時半からだと云う。まだ半時間先なので、その間に酒調達をすることにし、念のため海の見えるテラス席を12半から予約した。
  繁華街をしばらく探したが、食品店や酒屋を見付けることができないまま12時半が迫ってくる。酒購入は後回しにしてパノラマに引き返した。 
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2.展望レストラン・パノラマ
 パノラマのテラス席。中央にいる4人グループの右側テーブルが私の席だ。
  先ほどは見かけなかったウェイトレスが二人になっていた。案内されたテラス席は期待通りのものだ。お品書きに目を通し、メインはフランク牛のタリアータにした。実のところタリアータがいかなるものか知らなかったが、ビーフを好みの焼き加減で調理してくれるとの説明を読み、ビフテキの類だろうとこれにした。
 フランク牛のタリアータ。  タリアータの焼き加減。  付け合わせの焼き野菜。
景観と海からそよぐ風が何よりの御馳走だった。
  お品書きにはサラダなどが載っていないのでウェイトレスに訊くと、「タリアータの付け合わせには、かなりの量の焼き野菜が付きます。」とのことで、これで良しとした。ワインはサッパリ理解できないリストを読み、ともかくマルタ産であることから候補を絞り、ウェイトレスに辛口であることを確認し、グラン・キャバリエ・ソービニオン・ブランにした。ちなみに余り高価なワインはなく、これが二番目に高いものだった。
  注文してからワインが運ばれてくるまでが5分ほどだった。料理の方はだいぶ待たされるだろうと覚悟する。しかし素晴らしい景観を目の前にし、テラス席で寛いだままワインを飲み、海から吹き寄せる爽やかな風に吹かれていれば、待つことになんのストレスも感じなかった。
  20分強でタリアータが到着した。まずは予想していたものに近い。フォークとナイフで崩し、焼き具合が注文通りだと確認し、一口試食した。味わいも好みのものだ。付け合わせの焼き野菜は想像以上に量があり、ベークドポテトは糖質制限に違反するが、「たまには良いだろう」と楽しみながら食した。
  12時半には先客一組だけだったが、時間の経過と共に客が増える。当然ながら皆テラス席を望むが、限られたスペースなので4テーブルしかないので、1時を回ってからの来店者は、店内のテーブルからテラス席越しに外を眺めるしかなかった。
  そんな状況で、4人掛けのテーブルを一人で占拠していることを多少なりとも後ろめたく感じる。少し食事のペースを上げ、タリアータを食べ始めてから40分弱で総てを平らげた。勘定はタリアータ26€(3,396円)、ワイン24€(3,134円)。徒歩1分で宿へ戻り一眠りする。
左がデボラで右端がアレッシア。中央はギリシャ料理店のウェイトレスだけれど名前は判らなかった。
  夕方になり酒の調達に再挑戦する。探し回るより既知のスーパーマーケットを利用する方が、結局は急がば回れと思う。以前よりは遠くなったが、それでも徒歩12分なのだから。
  カメラを肩に、レジ袋をポケットに入れて、僅かに黄昏始めたマーチャント通りをとぼとぼ歩いていると、乱視と白内障のため明瞭さを欠く視界に、若い女性3人が私の方へ手を振っているような像が浮かび上がった。あり得ないような光景に狼狽して目を凝らすと、モダン・アパートメントのアレッシアとデボラがギリシャ料理店のウェイトレスと共に談笑中だったらしく、私の近付いてくることに気付き、手を振ったのだった。
  しばし歓談の輪に加わり、別れ際にスリーショットを撮らせて貰う。ちょっとしたことではあるが、ウキウキした気持になりスーパーマーケットへ向かった。
アッパーバラッカガーデン付近からリカソリ要塞。
  スーパーでは最後の酒一壜と、ベーコンなどを購入した。詳細はレシートを紛失したため不明だ。帰り道は遠回りだが海沿いの道を選ぶ。まだ晩酌にはちょっと早いし、そろそろヴァレッタの風景も見納めかとの感傷もあった。相変わらず海の青さが素晴らしい。
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3.終章
海老とニンニクに付け合わせのポテトとトマト。。
  6月11日の日曜日は、いよいよ明日が帰国となる。だからと云って行きたい所や見たいものもなく、いつもにもまして怠惰な一日を過ごした。
  時分どきになりギリシャ料理店ELIAへ出かけた。今度のアパートメントからでも徒歩8分で行くことができる。何時ものそして昨夕出会った彼女が変わらぬ笑顔で迎えてくれる。見慣れたお品書きだが、改めて見直し、温かい前菜グループから海老とニンニクを選び、それに前回と同じ、ギリシャ産白ワインを注文した。
  料理は可も無く不可も無しで、1時間ほどかけて食事が終わる。勘定は海老が11.5€(1,502円)、ワインが19.5€(2,547円)。食後は寄り道もせず宿へ帰り、午睡の後は日本の新聞を読んだり、ネットサーフィンで時を過ごした。最後の晩酌はオリーブの実とスクランブルエッグをつまみにした。
  明けて6月12日は帰国だが、トルコ航空のイスタンブル行きは午後7時5分のフライトだ。宿の最終チェックアウト時刻は10時なので、ほぼ一日の時間潰しが必要になる。前日も行き場所がないまま部屋でくすぶっていたが、チェックアウトしてカバンと共にうろうろするのはなんとも冴えない。
  このことは前々日に対策を講じていた。12日に宿泊予定者がいないことをインターネットで確認後、オーナーの Sonja に替わり管理をしている Simon 宛メールで、「有償で滞在時間を延長し、16時まで部屋を使用したい。」と要望したのだ。これはあっさり受け入れられ、「宿泊予定者がいないので、無償で良いから16時まで使用して下さい。」とのありがたい内容だった。
上:ピザ・カプリチョーザ。下:ミックスサラダ。
  外出せずに部屋で寛いで時を過ごしたが、12時を回って昼飯昼酒に出かける。リパブリック通りへ出ると、何時も人出の多いところだが、これまで見た倍ぐらいの雑踏ぶりだった。 Simon が使用承諾のメールに書き添えていた、「明日は選挙の祝勝会で、5万人予想される。」とあったが、この人達のことだろうか。
  昼飯は馴染みのギリシャ料理店で最後を締めくくろうと思っていたが、あいにく休業している。仕方ないのですぐそばにあり、以前ピザを食べた軽食堂を再訪した。
  前回食指の動いたピザ・カプリチョーザとミックスサラダを注文し、ワインは前回と同じマルタ産のマルタ騎士団にした。
  10分ほど待って供されたカプリチョーザの味わいは、ちょっとガッカリだったが別に不味いというようなものではない。40分ほどでピザを食べ終え、他のものも総て胃袋に収まった。勘定はカプリチョーザ8.5€(1,110円)、サラダ5€(653円)、ワイン18€(2,351円)だった。
  食後は真っ直ぐ宿へ戻り、予定通り4時まで過ごした。最後に忘れ物や散らかしたままになっていないかチェックし、ポチ袋の表にありがとう(Thank
you)純一(junichi)と書いて20€(2,612円)入れ、鍵と一緒にテーブルの上に置いた。モダンアパートメントよりは延長時間が長かった分を勘案し多くした。
  以後これといったトラブルもなく、飛行機は定刻より若干早く飛び立ち、イスタンブルへ向かう。
 ―― マルタ紀行完 ――
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  最後にアパートメントのオーナーによる私の評価を。ロザリオさんは未記載。
―― Alessia E Debora  ――
 Very kind and polite guest with a relaxed attitude like a real traveller! :) thanks again, you were our first guest hope you enjoyed your stay in Valletta. :)

―― Sonja Horgen ――
 I wasn't there to personally greet Jun-Ichi but understand he was a great guest.

  いずれも褒めすぎなように感じられるが、ポチ袋が利いたのだろうか(^^;
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