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 10.八甲田山

  最終日になってようやく晴れた。しかし宿の部屋から正面に見える岩木山は、頂上の辺りを雲に隠したままだ。8時にチェックアウトし、30メートルほど先にある喫茶店「壱番館」へ。此処は弘前を訪れたときはできるだけ寄りたい店のひとつだ。軽い朝食として焼サンドイッチ。Kさんはコーヒーで後二人はセイロン風ミルクティーを注文。
  ママは60前後だと思うが、初々しさの残る美人で感じの良い人だ。店を出てからこの意見を披露すると、Kさんは同意しつつ「脚の細い人だ」と付け加える。どうも女性に会うと、最初に視線が脚へ向くらしい。

 城ヶ倉大橋付近。
 

この日のドライブは、Hさん運転、Kさんナビゲータでこちらは後部座席を独り占めし無責任状態を継続。Hさんは半年以上運転していなかったとかで、はじめのうちは多少怖い思いもしたが、すぐに勘が戻り、そして郊外へ出てしまえば、車は少なく見通しも良いから、全員リラックスしてドライブを楽しむ。天候は適度な日差しと爽やかな風で絶好のドライブ日和だ。
途中、国道394号線に別れ、しばらくすると山道を登り始めた。高度が上がるにつれ、木々の色付きが少しずつ深まる。白神山地よりは紅葉の度合いが幾分進んでいた。
  標高700メートルの城ヶ倉大橋付近は観楓ポイントとして定評があるのか、駐車場は満杯で、その外にも車が停まっている。付和雷同し、しばらく紅葉見物。
  ちなみにこの橋は「アーチ支間の長さが255mで日本一の上路式アーチ橋」だと某ウェッブページに書かれていた。


 
11.酸ヶ湯

再出発していったん青森方向へ下り八甲田ロープウェイの山麓駅へ行く。ロープウェイを利用すれば一気に1326メートルの田茂やち岳 山頂付近までゆける。しかし駐車して駅に近づくと、「百人乗りのゴンドラを運航していますが、40分ほどの待ち時間です」と、ラウドスピーカーが叫んでいる。行列を作って、ラッシュアワーの電車みたいなのに乗っても仕方ないと、即座にきびすを返した。

 酸ヶ湯から大岳へ続く斜面は若干の色付き。
 
 酸ヶ湯そばの地獄沼。
 

上りがしばらく続き酸ヶ湯に出る。標高900メートルで、大岳へ通じる斜面は色付き始めているが物足りない。しかしともかく駐車して辺りを見物する。
  この温泉はヒバ千人風呂で有名で、Kさんは実物を目にしたかったらしいが、残る二人が乗り気でなかったため断念。替わり(?)に売店で味噌オデンを買ってきた。 ショウガの利いた味噌味は、竜飛岬と異なるが、これも旨い。Hさんのステンレス・マグカップにみちのく温泉の飲み残し一升瓶から酒を注ぐ。売店のカウンターにマグカップを置くと、Hさんの手が条件反射的に伸び、危うくゴクリとやる寸前に気づいた。   

 地獄沼から流れ出す沢筋。
 
 睡蓮沼。
 

 「Sさんはいないんですね。忘れてました」と云う彼女の言葉に一抹の未練を感じたのは錯覚だろうか。ともかく好きな人が運転故に飲めないと思えば胸が痛む。しかし免許がない分、運転に関して最初から蚊帳の外だから、その点は気楽だ。そんな思いを知ってか知らずか、Kさんは豪快にカップを干した。
  酸ヶ湯を出発しまもなく、路上駐車や、ごった返す人並みで観楓スポットと判り再び下車。「地獄沼」と刻まれた木柱が立っている。ガスや98度の温泉が湧出しているそうで、確かに硫黄臭が漂い、沼から流出する水は白濁している。
  地獄沼からなだらかな上りが続き、標高1020メートルの笠松峠を越えると、高原状の平地が広がった。再び路上駐車から観楓スポットと、下車して人波に従う。舗装道路から僅かに分け入ると、湿原が展開する。睡蓮沼だ。高田大岳(1552 メートル)、小岳(1478メートル)などの山脈が後背となるものの、雲に見え隠れして今一つの景観だった。
  このくらいが八甲田山での観楓で、山を下る。

12.奥入瀬  
 

 奥入瀬渓流、阿修羅近辺。
 

 途中、道を間違えて県道256号線に迷い込んだりするが、すぐに気づいて大過なし。
  奥入瀬渓流に入るとさすがに車の数が増えるものの、渋滞には無縁で気持ちよく景色を楽しみつつ進んだ。
  渓流の入り口となる焼け山から終点(十和田湖からの流出口)の子の口までおおむね遊歩道が整備されているが、中間の石ヶ戸から歩く人が多い。二時間半ぐらいで子の口へ至るらしい。
  Kさんは数回訪れており、土地勘がある。彼の薦めで阿修羅近辺を暫時散策した。車を停め写真撮影をする人が多い。
  その後はもっぱら車内からの観光。見通しが良いながらも屈曲の多い道路は、走行する車両のスピードも上がらず、辺りを見回しながら行くのに好都合だった。Hさんは「運転に集中。脇見はしない」を原則とするが、それでも幾分は見所を楽しんだらしい。

 瞰湖台からの眺望。左に小さく遊覧船。
 

13.十和田湖

十和田湖は全体的に明るい感じの湖で、岸に沿って周回してゆくと、湖面を渡ってくる風が爽やかだ。瞰湖台で一休みする。
  この展望台は湖面との標高差が180メートルあり、そして湖はこの辺りが最深部(327メートル)らしい。深く澄んだコバルトブルーの水面を白い遊覧船が静かに航行してゆくのは眺めとして良くできている。しばらく呆然と船の動きを追った。
  さらに湖岸を周回し、乙女の像付近の休屋やすみや に達する。遊覧船の発着所があり、土産店、レストラン、ホテルなどが蝟集する、十和田湖随一の殷賑を極める場所だ。1時を回っていたので、有料駐車場を利用し、食事場所を探す。「和食系が続いたから、洋食を. . . .」の提案に異論はない。
  いくらも歩かないうちに、前方の大型土産物店信州屋の二階に「十和田牛ステーキ」の横断幕を発見した。「十和田牛」は聞き慣れないが、新興のブランドらしい。ともかく様子をうかがいに階段を上ると、大型店の落ち着かなさはあるものの、窓際の湖を見下ろす席が、ちょうど空いたところだった。

 御前ヶ浜からほんのり色付く甲島。
 

メニューも店の雰囲気に相応のもので、ともかく十和田牛ステーキと、チキンソテー、ハンバーグを各ひとつ頼んで分け合うことにした。Hさんには申し訳ないが赤ワインも一本。連休の混雑に、助っ人となったのか、中学生ぐらいの可愛いウェイトレスが給仕してくれる。
  料理の味わいは予想通り、しかし明媚な風光と談笑がこれを補い、楽しい昼食だった。この後、乙女の像につながる御前ヶ浜を散策し、 十和田湖神社を回って駐車場へ戻り、これにて十和田湖観光を終わりにする。

14.打ち上げ ―― 天竜食堂
  先ほど通った奥入瀬渓流を逆行し、一路八戸のトヨタレンタを目指す。旅に出る前心配していた渋滞はついになく、5時少し前に到着。店の隣が宿泊予定の東横イン八戸で、その隣が打ち上げを予定している天竜食堂と、絶好の配置には思わず頬がゆるむ。5時には小上がりに落ち着いて、冷や酒とビールで乾杯していた。
  この店のオリジナルメニュー、「特製ぬるぬるねばねば五点セット」は、納豆、メカブ、山芋、オクラ、ナメコをあえたもので、好みははっきり分かれそうな代物だ。幸い三人ともこの手のものを好物としている。後は八戸漁港にあがった新鮮な魚介類の刺身で一気に酒が進んだ。
  瞬くうちに時は過ぎ、8時近くなっていったん席を立つ。最終の新幹線で帰京する忙しい二人を駅まで見送るためだ。改札口で別れを告げ、もう一、二献するために天竜へ引き返す。見上げる空は晴れ渡り、宵待ちの月が冴え冴えとした姿を輝かせていた。―― 歓楽極まりて哀情多し ―― か。いや、一人旅をもっぱらとするものにとっては、これが常態なのだ。